第961話 尖れ


 寝落ち防止の強制覚醒措置のせいで逆に目が覚めてしまった俺はぼーっと無心でハーゲンの頭を撫でていた。


 ハーゲンの禿頭から後頭部、頸、へと徐々に毛が生えている感触を楽しんでいるのだ。ハーゲンは中々良い毛を持っているのだが、残念なことに頭部にはそれがないのだ。


 まあ、それが良いところでもあるんだけどな。


 そういえば、ハーゲンは死んでからまだ一度も進化していないな。周りの従魔たちは皆俺が進化させて錚々たるメンバーが揃っているのだが、そのせいで逆にハーゲンが浮いてしまってる。


 俺が進化させてあげたいところだが、ハーゲンは自らの進化することを望んでいる。非常に難しい問題だ。親ってこんな気持ちなのだろうか?


『ハーゲン、進化できそうか?』


『ご主人様……も、申し訳ございません』


『あっ、いや別に謝ることじゃないぞ? お前が望めばいつでも好きなように進化させてやれるし、そんな急いでするもんでもないからな。ただ気になっただけだ』


『……』


 どうやらハーゲンは行き詰まってるみたいだった。まあそれもそうだよな、だって普通はプレイヤーが付きっきりで一緒に戦うことで互いに強くなるもんだからな。


 一人で強くなるどころか、進化しろっていうのはかなり難しい話だ。


『困ったことがあればいつでも俺を頼っていいからな』


『はい、ありがとうございます』


 俺がそう言ってもハーゲンの顔はどこか陰っていた。そーだよなー自分だけ弱いというのはそれだけ役に立たないってことでもあるもんなー。どうしたもんかなー。あ、そうだ。


『ハーゲン、お前は魔王軍唯一俺の移動手段としても使える優れものだ。だから強さだけでなく、速さを追い求めてもいいのかもしれんな』


『強さじゃなくて、速さ……素晴らしい助言ありがとうございます!』


 助言、のつもりでも無かったが俺の言葉でハーゲンの気持ちが楽になるのならそれに越したことはない。


 別に弱くてもいいんだ。どんなに俺の従魔が弱くても俺がその分強くなれば良いだけのことだからな。


 安心してこれからも強さと速さを追い求めて行って欲しい。


『陛下、ご報告があります』


 それは唐突にやってきたメガネくんからの連絡だった。彼から連絡してくるのは非常に珍しいな。もしかして城で絶賛レベリング中の魔物プレイヤーたちに何かあったのだろうか?


『どうしたんだ? 何か問題でもあったか?』


『いえ、魔物プレイヤーの育成は非常に順調です。今回は陛下に耳寄りな情報を入手したのでお伝えしようと思い連絡させて頂きました』


『なるほどそういうことか。じゃあ教えてくれその情報とやらを』


『はい、どうやらプレイヤーの間で海底神殿が見つかったという情報が回っております。デマの可能性も調べましたが、かなりの人数が既に向かっているらしく、恐らく本当だと思います』


 ふむ、海底神殿か。海底神殿というと、最初の湖の神殿を思い出すが、多分あそこではないのだろうな。


『ですので、陛下もプレイヤーのフリをして行かれては、と思っております。かなりの難易度らしくプレイヤーが苦戦しておりますので、この内にクリアされてはいかがでしょう?』


『よし分かった。すぐに準備していく。座標は……後で送ってくれ』


『かしこまりました。余計とは思いますが、ご武運を』


 そう言ってメガネくんとの会話は終了した。今回も中々面白そうな情報を提供してくれるメガネくんには感謝しかないな。


 にしても海底神殿か。クラーケンとかいるかな? 久しぶりに食べたくなってしまった。


 タコパできるといいなぁー。

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