第953話 気息奄々


「うわぁあああああああ! ちょっ、おえ、うぉおおおおおおお!ちょっ、たん……まああああああ!」


 俺たちは今、ハーゲンに乗って遊覧飛行を楽しんでいた。


 メガネくんは高所恐怖症なのか、とても大きな声を出している。だがここまでくると最早楽しんでいるようにすら思える。本当に怖かったら一言も出ないんじゃないか?


 ハーゲンもハーゲンで、初めて俺以外のプレイヤーが乗ることに張り切っているのか、きりもみ回転や宙返りなど様々なアクロバティックな飛行をしてくれている。あ、メガネくんが大声を出しているのは高い所が怖いんじゃなくてこの飛行が怖いのだろうか?


 でも楽しくないか? 現実じゃ絶対できない体験を命の危険なしにできるんだぞ? しかも人目を気にせず。最高じゃないか。どうせ落ちても死ぬだけなんだからもっと楽しめば良いのに。


 ほら、きりもみ回転してる時に自分自身を逆に回転させるとなんとも言えない変な感じになって面白いぞ?


 だが、まあこんな所でいいだろう。流石にこんなことばかりしていては永遠に目的地に到着しないからな。


 ハーゲンにもう大丈夫だと言うことを伝えて一旦ホバリング状態にした後に、メガネくんの方に視線をやると肩で息をしており、息も絶え絶えと言った感じだった。


「なぁ、カメレオンがいる場所分かるか?」


「えぇ? はい、おえ、ちょっと一旦待ってくださいね。ふぅー、あちらですね。森の中で特定のモンスターを特定の数倒すことで遭遇できるようになるそうです」


 だが、真面目な話になるとそこはしっかりしており、ちゃんと受け答えをしてくれた。まあ、気持ちの切り替えはできても体、特に呼吸器官の切り替えは難しいようだったが。


『じゃあハーゲン、あの森まで頼む』


『了解っす!』


「うをっ、ちょ待っ……てぇえええええええ!!!!」


 ❇︎


「はぁ、はぁ、はぁ、こっ、ここが目的、地、です」


 バタっ


 それがメガネくんの最後の言葉だった。目的地に到着したと言うのにここで倒れるなんてなんと不憫なんだ。この遺言は決して忘れないからな。ハーゲンに魔王城へ連れ帰るよう命じた俺はとても大切なことに気がついてしまった。


「あ、カメレオンの出現条件聞くの忘れてた」


 一番大事な事聞くのを忘れるとは、なんたる不覚。くそ、だってあのアクロバティック飛行が思いの外楽しくて、カメレオンのことが半分頭から抜け出してしまったんだもん。


 不幸中の幸としては目的地にまでは辿り着いた事だな。だから、なんとかなる、なんとかする。だから大丈夫だろう。


 メガネくんは特定のモンスターを特定の数だけ倒せば良いと言っていた。きっとここに着いてから色々説明してくれる予定だったんだろうな。目的であるカメレオンに着いての情報だけでなく狩らないといけないモンスターの情報も仕込んでくれていたのかもしれない。


 それなのに俺は、俺は……!


 だからメガネくんの思いも剣に乗せ、この森のモンスターを全員駆逐します。条件を満たせば出てくるんだろう、カメレオンが。ならばカメレオンが出てくるまで狩り続ければいいだけのことよ。


 ちょうど今、レベルを下げてマックスまで復活はしてなかったからな。全力レベリングを兼ねてカメレオン召喚の儀式と行きますか!

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