第943話 ライフ


「生命エネルギー、ですか?」


 公爵悪魔はとても不思議そうな声でそう言った。流石に公爵悪魔といえどもと知らないのか、とそう思った時、


「生命エネルギーはその名の通り生命のエネルギーじゃないのですか? つまりは生きる為に必要なエネルギーでもあり、誰でも、どのモンスターも持ち合わせているもの、だと思うのですが……」


 え、知ってるの? しかも生命エネルギーはとてもシンプルなもののようだ。


「それなら、モンスターを倒せば沢山手に入るのか?」


「えぇ、そうでございます。私たち悪魔はそれらを主食に生きておりますし、生命エネルギーを獲得することによって強くなりますので、生命エネルギーの確保は目的であり手段でもあります」


 なるほどなー。じゃあ生命エネルギーって初耳だったから少し驚いたんだが、もっと普遍的なものでそんなに心配する必要はないってことだな。


 だが、調子に乗って霊体改編を使いまくったら、生命エネルギーが枯渇して死ぬ、なんてことがあるかもしれない。


 死ぬ!? こ、これは新たな死に方を俺は見つけてしまったのかもしれない。


「おい、お前は俺の生命エネルギーの量を見ることができるのか?」


「はい、見ることができますよ。人間であっても感じられる雰囲気やオーラ、覇気と呼ばれるものが私たちにはより数値化して見ることができるのです。そして、ご主人様は……とてつもない量を保有しております」


「とてつもない量?」


「はい。とてつもない量です。あまりの量にどれくらい、というのが難しいレベルですね。私たち悪魔からすれば最高のご馳走であり、同時に注意すべき相手にてございます。一つ言えるのは、ご主人様は今、親王悪魔にも引けを取らないほどの生命エネルギーを保有している、ということですね」


 マジかー。じゃあ結構な回数霊体改編を使わないといけないみたいだな。


 ん、親王と引けを取らないくらい、だと? 俺は親王を倒したのに親王と同等の量っておかしくないか? モンスターを倒したらそいつのエネルギーは貰えるんだろ? 俺の初期値がかなり低かったとしても、親王のエネルギーを貰ったら超えると思うのだが。


「今、親王と同じくらい、と言ったか? 何故親王を倒したにも関わらず同等、なのだ? 俺と親王にはそれだけの差が最初からあったのか? それとも親王の生命エネルギーをちゃんとはもらえなかったのか?」


「恐らく後者だと思われます。ご主人様に初めてお会いした時からすでに親王クラスでしたが、今となんら代わりはありません。つまりは、親王からエネルギーをもらえなかったのだと推測します」


 ん、会った時から変わっていない? なら親王を倒したなら俺は莫大なエネルギーを持っていてもおかしくないよな。でも持っていない、つまり、俺は親王戦では生命エネルギーを獲得できていなかった?


 はっ、もしかして霊体改編の仕業か?


 霊体改編は情報そのものである霊体をいじくり回すというスキルだ。言い換えると現実の書き換え、ギリ言えなくもないだろう。


 新王は現実を書き換えられて生きてた状態からこときれた状態へと書き換えられ、初めからその状態だと認識されたら?


 俺が倒したことになっておらず、生命エネルギーを獲得できなかったのかもしれない。なんならこれは記憶が定かではないが、今思うとレベルアップもしていなかったように思う。親王を倒してレベルが一つも上がらない、なんてことは考えにくい。


 ……これは少し厄介なことになってきたな。

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