第938話 人間臭さ


「それでどこにその親王とやらはいるんだ? ここにはいないのか?」


「ここにいらっしゃる親王は一名のみです。そもそも親王はそれぞれ自分の城を持ち、自らの配下で城を守っているのです。ですから、親王を全員倒すなど余りに途方も無いことなんです」


「うっさい、もう親王を倒して悪魔の王を倒すってことは俺の中で決定事項なんだ。ごちゃごちゃ言ってると俺のペットに食わせるぞ? それより、ここにとりあえず一人の親王がいるってことだよな? じゃあソイツを倒しに行くか」


「ほ、本当に行かれるのですか?」


「あぁ、そうだって言ってるだろ。あ、そうかお前からしたら親王は仕えていた主人でもあるのか。じゃあこれからどうする? 俺についてきてもいいし、そのまま逃げても良いぜ。ただ、お前のご主人様はいなくなってしまうけどな」


「くっ、こうなっては乗りかかった船です。最後までついていきますよ! もうどうなったって知りませんからね!」


「あぁ、心配せずについてこい」


 乗りかかった船、か。この悪魔は言葉のチョイスといい、立ち振る舞いから人間臭さが漂っているな。もしかしたら悪魔は位が上がるごとにどんどん知能が高くなっていくのかもしれない。親王がどれだけ強いのかがますます楽しみになってきたな。


 この悪魔は別に服従させなくていいか。別に俺の従魔にしたいわけじゃないし、協力関係さえ築けていればそれでいい。もし裏切られてもその時は力でねじ伏せるだけだ。


「あ、親王の位置俺知らないから案内してくれ。俺は隠れているからさ、【隠遁】」


「え、はい。えっ!? はぁ……」


 俺が姿を隠した後も公爵悪魔はしっかりと案内してくれた。その道中はかなり複雑で悪魔も腐るほど居たから、案内人を付けて正解だった。悪魔の心臓だけは勿体無い気もするが、時間効率を考えるとこれでよかったはずだ。


 そして、悪魔についていきながら何度か階段を昇ると、大きな扉が見えてきた。その中に入ると、そこには俺の魔王城にも勝るとも劣らない謁見の間が用意されていた。流石は悪魔を従える四大親王の一人、というわけか。


「久しぶりだなバウゼムよ」


 お、遂に会話が始まったみたいだな。俺にはまだ気付かれていない。ってか、あの公爵悪魔親王にも名前を間違えられているじゃねーかよ。本当、わかりにくい名前だよな、バウゼンって。


「お久しぶりでございます。親王様」


「堅苦しい挨拶は良い。そんなことより、貴様の後ろについているのはなんだ? どこからそのような虫けらが入ってきたのか説明してもらおうか」


 え、バレてる? 俺の隠遁が? 俺の隠遁はバレないことに定評があったのだが、流石は親王だな。これから親王と戦っていく上で隠遁を含め諸々のスキルを強化していかなきゃだな。まあ今はとりあえず姿を見せて挨拶するか。


「おっと、これは失礼しました。お初にお目にかかります、魔王です」


「魔王? お前のような存在が、か? もしそうであるのならば魔王は誰にでも務まる凡庸なものだということになるが」


「どう考えるのかは親王様次第ですよ。ま、王にもなったことのない者には分からないことでしょうが」


「ほう、それは宣戦布告ということでいいのだな?」


「えぇ。でも今のでお怒りになられるということはやはり器が小さいようで」


「減らず口が! 言わせておけば我を愚弄しおって、誰を敵に回したか後悔させてやる! 今更後悔したところで貴様の死は覆らないがな!」


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