第937話 シンオウ
「な、なんでもする! なんでもするから命だけは助けてくれ!」
俺が少し力を入れて首を絞めると悪魔はそう懇願してきた。悪魔の癖にここまで人間臭いとはな。人間風情に従うくらいなら死んだ方がマシだ! くらい言ってくると思ったのだが。
まあ手間が省けて楽になったな。じゃあ協力してもらいますか。
「おい、悪魔の親玉はどこにいる? 悪魔の王に俺を会わせろ。お前みたいに一人ずつ倒しても良いんだが時間がもったいないからな。王同士で戦った方がいいだろう?」
「王、同士だと? 貴様人間ではないのか? それとも人間の王なのか?」
「いや、違うぞ? 俺は魔王、魔物の王だ」
「魔王だと!? 貴様騙したな!」
「おいおい、勝手に勘違いしたのはそっちだろ。今更逆ギレか? というか、お前自分の立場分かってんのか? 誰にそんな口聞いてんだよ」
「うぐっ、す、すまん」
「すまん?」
「すみません……」
「それで悪魔の親玉はどこにいるんだよ。さっさと答えろ、俺はお前らみたいに暇じゃねーんだよ」
「は、はい。その非常に申し上げにくいのですが、我が君主はここにはいないのです」
「ここにはいない!? おいおい、そんなことがあるのか? だってここは悪魔の城だろ? ここにいなきゃどこにいるって言うんだよ」
「それなんですが、厳密に言いますと悪魔王はこの世にいないのです」
「この世にいない? でも、存在はするって言うのか?」
「はい、ただ今悪魔王様は眠りについておられ、実体がない状態なのでございます」
眠っていて実体が無い、か。それはあまりに予想外だな。俺はこの城のどこにいるのか、って聞いたつもりだったのに、まさか答えがこの世にはいない、とはな。予想する方が無理って話だ。
だが、ここはゲームの世界だ。存在しないってことは存在させられるってことに他ならない。必ず何か条件があってそれをクリアすれば悪魔の王に謁見できるはずだ。
「じゃあ、悪魔の王を目覚めさせるにはどうすればいいんだ?」
「はっ? あ、あ、悪魔王を目覚めさせるとは、本気ですか!?」
「これが冗談に聞こえるか?」
「い、いえ。ですが、王を目覚めさせようとまさか人間が企むとは……」
「だから俺は人間じゃねーって言ってるだろ! いいから早く教えろ。それともさっさと死にたいのか?」
「わ、分かりました。王はこの世に存在する四体の親王悪魔が倒れた時に復活する、そう言って眠りについたと言われております」
「ほう、つまりはそいつら全員ぶっ倒せば悪魔の親玉が現れるって訳だな?」
「はい。しかし、その言い伝えと同時に王が目覚めた時にはこの世の全てを支配し、親王たちには王が不在の間世を見守ってきた栄誉として褒美が与えられます。その為、悪魔たちは常に親王の座を狙っており、それを退けている現親王たちは相当な実力者です。それでも本当になさると言うのですか?」
「当たり前だろ。因みにお前はその中で言ったらどのくらい強いんだ? 親王の座を狙えるくらいの強さはあるのか?」
「め、滅相もございません! 私如き親王様の足元にも及びません!」
へー公爵でも全然勝てないくらいに強いのか。それは面白そうだな。
「何がそんなに強いんだ? いくら親王と言ってもお前と同じ悪魔なんだろ?」
「いえ、親王は私たち悪魔とは隔絶した強さを持っております。いや、我々とは隔絶した強さを持つからこそ親王と呼ばれるのです。あの方達は王へと至る存在なのですから」
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