第933話 従魔の掛け算
何故かアシュラは敵の熊悪魔からのブレスを直撃したのにも関わらず無傷だった。そしてそのまま冷静にアシュラは敵の首を刎ね、心臓を俺に献上してきた。
『お、おい。どうしてさっきブレスを食らっていたのに無傷なんだ? 本当は避けたのか?』
『いえ、恥ずかしながら当たってしまいました。しかし、ブレス無効が発動したようです』
『ブレス無効? それは俺も持っているスキルなんだが、なんでアシュラが持っているんだ? あ、いや別に怒っているとかじゃないんだが、単純な疑問だ』
『はい、以前ご主人様が海馬にブレスを食らっているのを見て、その時から私も死なない程度に真似をしていおりました。最近ようやくブレス無効を獲得することができたのですが、それが功を奏したようです』
『そ、そうか……』
アシュラが俺の真似をしてブレス無効を獲得したってことか? そんなのアリなのか? いやまあだってほら俺は死にまくって耐性を獲得したのに、アシュラは死なずに地道に耐性を上げていったってことだろう? どんな忍耐力と継続力なんだ、素直に尊敬に値するんだが?
それと、海馬も手伝ってくれてたのか、後でお礼を言っておかないとな。もしかしたら回復要因でデトックスも協力していたのかもしれない。そう考えると従魔同士で仲良く協力するっていうのは嬉しいことだな。
バチバチに競い合うのも良いかもしれないが、こうやってお互いの強みを生かして支え合うのもなかなか良いのではなかろうか。
それに、こうやって自分たちで強くなり続けてくれたら俺が面倒を見る必要がなくなってくる。別に育児放棄したいってわけじゃないが、俺が目を離している隙にも強くなってくれたらこんなに嬉しいことはないだろう。
帰ったらどんどんみんなで協力して強くなるように呼びかけるとしよう。とりあえず今は悪魔の城だな。
この様子からするとまだまだ先は長そうだし、どんどん強くなっていきそうだ。油断はできない。
コロシアムのような場所から出ると、そこには階段があった。ようやく次の階に行けるようだ。果たして何階まであるのだろうか。
トラップを警戒しながら階段を登ったものの、特に何事もなく、登り終えるとそこには一つ大きめのそして煌びやかな扉があった。今までとは明らかに雰囲気の違う扉だ。確実に強敵が待っているはずだ。
念には念を入れて俺一人で扉を開け部屋に入った。するとそこには一人の老人がいた。
「フォッフォッフォ、ここに人間が来るのはいつぶりかのう? 何百年も前のような気もするし、一度もきた事がないような気もするのう。フォッフォッフォー」
その老人は椅子に座り、俺を見ずに独り言を言うように喋っていた。一見ただの老人に見えるが、こんな所にそんな爺さんがいるわけないし、ここに人間が来るのは、と言っていたことから間違いなく悪魔だろう、油断させようとしているのだ、気を引き締めなければ。
「フォッフォ、そう構えるでない。そんなに気張っていても良いことは何もないぞ?」
そう言って、その老人は初めて俺の方に鋭い眼光を向けた。その瞬間、俺はなんとも言えない悪寒に襲われた。すぐ様俺はその場から左にステップして避けると、俺が数秒前まで立っていた場所に雷が落ちた。
「ほぅ、人間は人間でも少しはやるようだな。だが、どうせここで貴様の命は潰えるのだ。大人しく死ぬが良い」
老人が俺の方に完全に向き直るとそこには悍ましい、もはや到底人間とは言えない顔があった。目を合わせるのも憚られるほど、醜く、汚い顔だ。その顔がニヤリと歪められると、更に魔法が放たれた。
俺を目掛けて、火、水、木、土、雷、氷、ありとあらゆる属性の魔法が飛んできた。どうやらこの老人、かなりやり手の魔法使いのようだ。悪魔が魔法を使うというのはどこか変な感じだが、伊達に歳を食っていないということか、俺も少しは本気を出した方が良いのかもしれない。
「【天翔機動】」
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