第926話 トリ予想外


 ん、ん? ちょっと待てこれはどういうことだ??


 俺の目の前には阿鼻叫喚地獄絵図の真っ只中にいる一体のゴブリンがいた。そして、そのは最後まで倒れることなく、全ての生命を喰らい尽くしてしまった。


 ……どうしてこうなった?


——それは遡ること三十分前、


 俺はPK集団を潰すためにゴブリンを城へと呼び出した。そして、説明をし終わった後に、実際にその小屋へと赴いたのだ。その時までは良かった、ゴブリンが堕天使ズと一緒に行きたいと言ったのが少し気になるくらいで、なんの問題も無かった。


 だが、問題はそこからだった。


 まず、俺はゴブリンに待ち伏せ作戦をするように指示した。それはまだレベルが足りていないであろうゴブリンがPK集団を倒す為の戦法として俺が考えていたものだ。そのために集合時間を一時間後にして俺たちは早めに来たのだ。


 これなら確実に各個撃破できるし、ゴブリン一人の力で倒せるから経験値も美味しい。俺はそんなことを考えていた。


 しかし、身を隠そうと小屋の扉を開けると、そこには十数人の先客がいたのだ。しかも、小屋の中は以前来たときよりも若干広くなっていたし、俺は現実を受け入れるまでかなりの時間を要してしまった。俺に思考加速系のスキルが無かったら本当に危なかったのかもしれない。


 だが、驚いていたのは俺たちだけでは無かった。相手もまた驚き、そして困惑しているようだった。


 それもそのはず。PK集団の誰を俺が脅したのかは知らないが、その人は実体の無い声に脅されてメンバーを集めたのだ。つまり、実体の無い何かが登場するか、それに準ずるものが来ると思っていたはずだ。そこに魔王とゴブリンが現れれば誰でも硬直してしまうだろう。


 その隙に俺はゴブリンに指示を出した。「ダメージを気にせず躊躇なく屠れ」と。


 だがこの時正直俺は、まだまだ育っていない育成途中のゴブリンがPK相手に一対一では勝てると思っていなかった。だから待ち伏せ奇襲戦法を行おうとしてたし、堕天使たちの同行も認めたのだ。


 その上で俺は手を貸した。ゴブリンへのダメージは俺の攻贖他愛で全て俺が肩代わりすることによってゴブリンへの全てのダメージを無効化した。


 もちろんこれだけで勝てるとは思っていなかったが、相手がまだ驚き硬直していることを考慮すれば何人かは倒せるだろうと踏んでいた。そして、相手が戦闘に参加し始めればこちらも堕天使を投入すれば良いと思っていた。


 思っていたんだが、


 思ったよりもゴブリンが暴れてくれた。ゴブリンが飛び出し一人二人目くらいは想定の範囲内だった。思い切りが良いなーとか、武器が粗悪だな何か作ってあげないとなー、とかそんなことを考えていた。


 三人目、四人目を殺したあたりもまだ、こいつやるじゃんーなんて悠長なことを考えていた。でも、風向きが変わったのは五人目からだった。ゴブリンの様子がおかしいのだ、明らかに始めて会ったときや魔王城にいた時のゴブリンではなくなっていた。


 血に飢えている獣の姿になっていたのだ。相手はそれこそ最初は反撃しようとしていたが、初手で驚きと困惑が与えられたからか、それらが恐怖に変わるのも早かったようだ。相手の動きは明らかに悪くなり、そのままあっという間にゴブリンの餌食となってしまったのだった。


 そして、今ここに至る。


 予想外に予想外が重なるとこんなにも異常な結果になると、誰が思っただろうか。俺がダメージを肩代わりしていたとは言え、思ったよりもゴブリンは強いようだ。


 バタっ


 あ、倒れた。流石にゴブリン自身も限界を突破して戦っていたようだ。そうでなきゃいくら硬直しているとは言え格上のPK集団の鏖殺なんてできないよな。


 俺は魔王城に連れて帰ろうと、倒れたゴブリンに近寄ると、またもや驚くことが起きていた。


「え?」


 ゴブリンの汚い緑色の皮膚が緋色、いやそんな鮮やかな色じゃなくて、もっとこう血が固まって時間が経った時のような、そんなドス黒い色に変色していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る