第919話 魔王の立場と急用


 あ、良いことを思いついたぞ。このゴブリンに魔物プレイヤーをここに集めさせればいいんだ。そうすれば俺は何もせずに国民を集めることができる。


 モンスターが国民としてカウントされるのかは怪しいところではあるが。まあ気にしたら負けだろう。最悪運営に人権、いや魔物権侵害だと訴えてやろう。


「我が貴様の復讐を手伝ってやる代わりに、貴様は我が国に魔物を呼び集めよ。人間共に復讐するにはここを魑魅魍魎の魔界とせねばならぬ。良いな?」


 俺がそう言うと、ゴブリンはまたも頷いた。ゴブリンはもしかして俺に萎縮してるのかもしれない。中身は同じ人間なのだからフランクにいきたい気もするが、立場的にそうもいかないのだろうな。


 なんだか囚人と看守の実験みたいだな。ゴブリンも長い間虐げられたことで、弱者としての振る舞い方が染み付いてしまったのだろう。


 よし、先ずはゴブリンの強化からしよう。弱い奴にはモンスターは集まらないだろうし、復讐もできないはずだ。


「仕事を始める前に先ずは貴様の力を測らせてもらおう。力が無くては何事も成し得ないからな。【死骸魔術】、召喚」


 俺はスケルトンジェネラルを召喚した。スケルトンよりは数段に強いけど、堕天使ズよりかは数段弱い、みたいな具合だ。コイツにどれくらいゴブリンが戦えるかでだいたいの強さが分かるだろ。


 ❇︎


 ……弱くね?


 え、こんなに弱いの? いや、うん失礼だとは思うけど、弱すぎやしないか?


 だって、スケルトンジェネラルどころか、スケルトンソードマンになんとか辛勝してたくらいだぞ? ゴブリンがステゴロだったってのもあるとは思うが、これは相当ヤバいんじゃないか?


 まだ始めたての初心者、と言う可能性もあるかもだけど、ゴブリンの言い分からするとかなり人間に恨みを持っている感じだった。ってことはそこそこプレイ時間もあるというわけで……


 これは本格的に鍛えないと不味いかもな。一般的なプレイヤーどころかそれを下回っている。


 技術もスキルもとかたりてないが、そもそもシンプルにステータスが追いついてない印象だ。


「い、一緒に狩りでも行くか?」


 俺は思わずそう口にしてしまっていた。


 なんか可哀想とか、なんとかしないととか、申し訳ないとか、色んな感情が渦巻いた結果今の言葉が出たのだ。俺自身どういうプロセスを経たのかよく分かってない。


 現実の会社で考えると、平社員、しかも新人が社長から一緒に営業行くか、と言われてるようなもんなのか。キツいな、色んな意味で。


「あ、もちろん嫌だったら


「お、お願いしますっ!!」


 食い気味でオッケーをもらった。というかなんで俺がオッケーを貰う側なのだろうか? これもよく分からない。


 ってか、これってパワーレベリングになるのか? もしパワーレベリング禁止条約みたいなのがあったら抵触しちゃうんだが。


 それに、魔王がゴブリンと一緒に狩りをしてるとこを見られたら流石に不味いだろう。ん、だからと言ってプレイヤーの格好でもダメだよな? あれ、俺ってば三つくらい変装手段があるのにそれでも足りないのか?


『おーい堕天使ズー。ちょっとこっち来てくれー。お前らにゴブリンの手伝いをして欲しいんだがー』


 そういって三人を呼び出してゴブリンに説明した。


「ゴホン、すまない。私は急用があるのを忘れていた。であるからして一緒には行けない様だ。それに、魔王が歩いていたら目立つだろうからな。だからコイツらを連れて行かせる。今から最低五十レベルを上げて我の前に来るのだ。さすれば、更なる高みへと進化さへてやろう」


 ゴブリンは目をパチクリさせて驚いていたが、多分大丈夫だろう。言い訳も完璧な筈だ。


 でも、本当は急用なんて無い訳だからなー。今から何をしよう。国民はゴブリンに集めさせるから、特にこれといった急用は無いんだよな。


 あ、そうだ。俺も久しぶりに一般プレイヤーとして狩りに出かけよう。これから魔王として生活することが多くなるだろうし、ただのプレイヤーの生活も貴重なものとなるだろう。


 ついでにゴブリンの進化素材なんか準備できたら最高だな。


 というわけで久しぶりに暗殺ギルドにでも向かいますか!

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