第918話 小鬼の嘆願


「陛下!」


 それは、魔王国が完成して、あとは国民をどう招待するか、それを考えていた時だった。突如として、部屋の扉が開いて、堕天使ズの一人、ミエナイがやってきた。


 そして、その隣には見覚えのないゴブリンがいた。それを見て、俺はビビッと来た。そう、魔王国国民第一号なのだと。


「どうしたんだ? そんな慌てた様子で。それにその隣は誰なんだ?」


 俺は全てを分かった上で知らないふりをしてミエナイに問いかけた。慌てた様子でやってきたのも、恐らく俺に国民第一号が登場したことをいち早く知らせたかったのだろうな。国のことに対して、我がごとのように喜んでくれるのはとても嬉しい。


「失礼しました。こちらは魔王国の最初の住民である、ゴブリン様でございます。この国に入ろうとした所に、人間共に攻撃されておりましたので、私たちが増援に駆けつけ、保護した形になります。いかがなさいましょう陛下」


 ん、なんか思ってたのと違うな。人間どもに襲われた? 増援、保護? 一体何が起きたというんだ? 確かに、そのゴブリンをよく見てみると攻撃された後が見えるが……


 って、え、このゴブリンよく見たらプレイヤーじゃん! よし、一旦何があったのか詳しく説明してもらおう。


 ❇︎


 その後、ミエナイから話を聞いた後に本人からも何があったのかを説明してもらった。そして俺が大まかな流れを理解した後に、ゴブリンはこういった。


「魔王陛下、魔物の民はこの世界で散り散りになっており、人間どもに駆逐される毎日を送っております。私は新参者の、若輩者ですが陛下に彼らの北極星となっていただきたいのです。陛下が何もせずともいらっしゃるだけで、皆が不遇な毎日を生きる糧となるでしょう」


 ん、北極星? なんでここで北極星が出てくるんだ? それになんでそうなったらそれだけで皆が毎日を生きれるようになるんだ?


 ……でも、ここで言葉の意味を尋ねるのは興醒めというか雰囲気ぶち壊しだしー、ちょっと険しい顔をして、メガネくんに聞いてみよう。


『なあ、モンスターのプレイヤーから俺に北極星になってほしい、と言われんただが、これはどういう意味だ?』


『北極星、ですか。そもそも北極星とは時間が経っても位置が変わらない星でありますので、古代では自分の位置を確かめるために使われていたようです。陛下に対してそんな存在になって欲しいというのは、恐らく、皆の道標となって欲しい、ということなのではないでしょうか?』


 ふむふむ、なるほどな。だが、メガネくんの解説はまだまだ続いた。


『あるいは、位置が変わらない、つまりは魔王城というモンスターの拠り所となる場所で、世界各地のモンスターを見守って欲しい、そんな思いがあるのかもしれません』


『そ、そうか。分かったありがとう、助かった』


 メガネくんの説明のおかげで少し複雑になった気もしなくもないが、言いたいことはなんとなく分かった。モンスタープレイヤーの力になって欲しいってことだろう?


 ならば魔を統べる者として責任を果たす必要があるだろう。


「貴様は、人間共にやられたのだろう?」


 俺がゴブリンに改めて尋ねると、彼は静かに頷いた。


「当初は人間どもも来るものは拒まぬつもりであったが、よかろう。我が国は魔物のみの国にしてやろう。そして、人間どもに復讐する機会も与えてやろうではないか。それで良いな?」


 ゴブリンは涙を流して喜び、感謝の気持ちを表していた。


 うん、なんかノリで復讐とか言っちゃったけどこれで良かったのかな? ま、最悪プレイヤーたちに押し付ければいっか。

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