第917話 天使の怒り
「魔王陛下は誰も拒まないと仰ったはずですよ?」
俺の手を取った天使がそう言った。その姿はとても慈愛に満ちていて、天女と思えるほどだった。しかし、そこには確かな威厳が伴っており、その場にいた全てのプレイヤーが天使の放つオーラにやられ言葉を失っていた。
「そんな魔王陛下の元に馳せ参じようとした者に対し、刃を向けたということは、陛下に剣を刺したと同義です。その大罪その身で償って頂きましょう」
そう言って天使の姿が変化した。全身から千手観音のように触手のようなものを展開した。
「お、おい、待ってくれよ! お、俺たちだって魔王の国に入ろうとしたんだって! これは単なる事故っていうか、モンスターがいたから仕方なく……!」
「魔王?」
天使の体が震えたように見えた。これは分かる、流石の俺でもこの天使の怒りが最高潮に達したのが感じ取れたぞ。
「では、私もモンスターですのでどうぞ刃をお向け下さい。ですが、陛下は一度刃を向けた方には容赦しませんよ? もちろん、私達もです。言、見!」
天使が「ゴン」、「ケン」と天使が言うと、どこから共なくもう二人の天使がやって来た。あぁ、なんと美しいのだろう。一人だけでも美しかったのに、二人集まるとこの上ないな。
「くそっ、三体とか卑怯じゃねーのかよ!」
「あら、そちらは大勢いるようにお見受けしますが、全員ウドの大木なのでしょうか? もちろん、貴方含めて」
「チッ、お前ら、やれ!!」
「ふふっ、ご自分で立ち向かう勇気もないとは、大木ですらなかったようですね。言、見、お願いします!」
「任せろ! 【毒墨霧中】!」
「うわっ、な、なんだこれは! ど、毒!? 気をつけろ! ダメージが入っているぞ!」
一人の天使が、広範囲に渡る毒ガス、スモッグを展開した。そして、それは同時に煙幕のようでもあり、一寸先の視界すら見渡せないほどの高密度だった。それに対してプレイヤーたちは慌てふためき、それだけで戦闘どころではなくなった。
「ふふっ、ゴブリンさん行きますよ? 【擬態韜晦】」
そして後からやって来たもう一人の天使が俺の手を取り、なんらかのスキルを発動した。すると、その天使の姿だけでなく、俺の姿も透明になってしまったのだ。こんな神の如き技を扱えるのが天使という存在なのか……
なんと、この天使様たちは俺の為だけにここまでのことをしてくださったのか。ありがたすぎる、そして美し過ぎる。
「行きましたか、では。【茫縛虜囚】」
俺たちがプレイヤーの集団からある程度離れると、俺の手を取ってくれた天使様の体から、花が咲いた。
その花びらはプレイヤー全員を絡め取った。その姿はあまりにも格好良く、そして美しかった。こんなに強く綺麗なのはその心が汚れていない証拠だろう。
あぁ、俺はなんて幸せなのだろう。今までのことなんて全て水に流せるほど、俺の心は澄み渡っていた。
「ふふ、では行きますよ? 陛下の元へ」
遂に、会えるのか。これほどの天使を従えている、魔王に。
「はい! どこまででもついて行きますっ!」
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注)ゴブリンの心が奪われた花はタコの触手です。
皆様、寒くなって来ましたが、体調にはお気をつけ下さい。
コメントは明日まとめて返すのでご勘弁を、大量に投下してくれると嬉しいです!
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