第916話 醜悪で美麗なる魔物

あるプレイヤー視点です。

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 ッドーーーン!!


「え、えっ!?」


 それは俺が狩りをしている時だった。突如、みたこともない山が噴火した。


 その山はとても禍々しくて、それでいて雄々しく、俺はそれを見て一つピンと来るものがあった。そう、魔王の国だ。


 先日、突如始まった魔王レイド戦。俺は絶対に勝てる訳ないと思って参加しなかったが、やはりプレイヤー側は勝てなかった。だが、そこで俺にとって衝撃的な情報が公開された。もはやこのレイドはこの情報解禁の為だけに行われた説が濃厚となるほどだった。


 まあ、真偽の程は魔王に勝てない以上、確かめようも無いのだが。


 そんなことはどうでも良くてだな。俺にとって、とさっき言ったのは、何を隠そう、俺が人外プレイヤーだからだ。


 俺の種族はホブゴブリンだ。最初はもちろん人類プレイヤーからスタートしたのだが、幸か不幸か、ゴブリンへと転生する機会が俺に与えられた。俺は運命を感じて、少しの打算と共にゴブリンに転生したのだった。


 ゴブリンに転生と言えば、やはりモンスターならではの進化、だろう。職業がない代わりに進化することで生命としての格を上げることができる。それにラノベとかだとゴブリンからオーガに成り上がって、みたいなのは鉄板だろう? だから俺は転生した直後、夢と希望に満ち溢れていた。


 しかし、現実は残酷だった。モンスターだから当然プレイヤーに襲われるし、かと言ってモンスターを倒そうにも最初の壁が大きい。スライムなんかを倒しても経験値にはならないし、一人だと強い敵は倒せない。


 俺の拠点にしている集落には仲間のゴブリンがいるが、そいつらも俺と同様弱く、集団になってもオークをなんとか倒すので精一杯だ。しかも経験値はお人数で分配されるから美味しくない。


 そう、俺はゴブリンに転生して早々詰んでいたのだった。


 来る日もくる日もプレイヤーに襲われ、集団でなんとかモンスターを倒す、そんな日々だった。


 そんな限界ゴブリンの生活に雷を落としてくれたのが、まさしく魔王だった。


 あのお方は来るもの拒まずとおっしゃってくれた。ならば俺の様な弱者は向かわねばならない、王の元に。そして庇護下に入らねばならない。魔を統べる者として俺を率いてもらおう。


 そして、そこで武勲を残せば俺は進化し、ゆくゆくは魔王軍の幹部にまでなれるかもしれない。


 そんな希望を抱き、俺は火山の噴火した方向へと歩みを進めた。間違いなくあそこに王がいる。俺の限界ゴブリン生活で培われた第六感がそう告げているのだ。


 ❇︎


 俺がその場所に着くと、そこには魔境が広がっていた。大地は焼け焦げ、至ところに毒沼が存在し、異臭が漂っている。そして圧倒的威圧感を放っている火山地帯と、白い建物、そして中央には豪勢な城がデーンっと鎮座していた。


 その場にはもうすでに多くのプレイヤーが何事か、と集まってきていた。だが、このあまりの有様に皆足踏みしている様だった。俺は、プレイヤーがいるからという理由で、近づけずにいた。コソコソと木陰から覗く、いつもやってることだ。


 でも、でも、ここは魔王のお膝元だ。こんな姿を見られたら、もしかしたら軍に入れてもらえないかもしれない。それに入れてもらっても幹部になるなんて不可能になるかもしれない。なら、どうせダメならここで挑戦すべきだ。


 どうせ死にやしない、いつものクソみたいな日常に戻るだけだ。


「あっ、おい! あれ……ゴブリン?」


 その一言を皮切りにプレイヤーの集団がザワザワし始めた。どうやら存在がバレたらしい。これで退路は断たれた、ならば前進あるのみだ。こんな醜い体でもせめて死に際だけは前のめりにかっこよく死んでやる!


 俺は木陰を飛び出し、魔王国へと走り出した。物凄く時間がスローに感じられる。自分の体が鈍りみたいだ。でも、確実に前には進んでる。そして、プレイヤーたちはまだ俺に攻撃しようとはしてない。ゴブリンなんか気にかける必要もないだろう。


 そんな雑魚キャラの俺が魔王軍で成り上がるんだよ、こんな所で止まるわけには……


 グサッ


「おいおい、こんな所にゴブリンがいるぜ? 一丁前に魔王の国に入ろうとしてやがる。それにプレイヤーだぜ? 魔王国に入るのは俺たちが一番だ、ゴミは消えろ」


 刺された。あぁ、やっぱり俺ではダメなんだ、でも、せめて前を向いて死のう。


 俺は城の方へ向き直り、手を伸ばしたが、その緑褐色の手は何も掴むことなく、空を切り、俺は地に伏した。


「っ……!?」


 だが確かに空を切ったはずのその手が誰かによって掴まれた。顔を上げるとそこには天使がいた。

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