第906話 悪どい魔王


『ちょ、ちょっと待っ……陛下! 一つだけお伺いしてよろしいですか?』


 流石に投げやり過ぎたか。意気揚々と出発しようとした矢先、メガネくんから折り返しが来た。流石に俺も鬼ではないからな。質問の一つや二つは聞いてやろう。


『よ、要件は分かりました。詳しくは聞きませんが、大量にプレイヤーが必要ということで間違いないですね?』


『あぁ、そうだ』


『では、少しばかりお時間を頂けないでしょうか? いかんせん急なことですので、三日……いえ、せめて一日だけでもお時間を頂けないでしょうか?』


 そうか、そうだよな。流石に集合って言ってそんなに人が集まるわけじゃないよな。でも、いざ始まれば人は集まってくると思うから……


『分かった、一日だけ時間をやる。あまり気張り過ぎずできる限りのことをやってくれ。どちらにせよ、ことが始まれば騒ぎが人を呼ぶだろう。だから、その火付け役だけを集めてくれれば良い』


『あ、ありがとうございますっ! では、至急準備に取り掛かりますね。余計な一言かと思いますが、ご武運を』


 ふふっ、本当に余計な一言だな。俺がしようとしてることは武士道からは遠くかけ離れているからな。まあそれでも、悪い気はしない。


 それより、少し時間が空いたな。ドラゴンの為に今すぐスキルを進化させたいんだが、急がば回れって言うしな、今日は準備の時間に当てるとしよう。丁度、装備を受け取った時に試したいことがあったんだ。


『ハーゲン!』


 俺は久々に筆頭従魔を呼び出し行き先を告げ、その上に跨った。ハーゲンは一度死んだ事でキメラでは無くなってしまっているものの、その飛行力はいまだ健在だ。


 ハーゲンもいずれその内、ちゃんとした進化の道を辿らせてあげたいものだな。


 ハーゲンは瞬く間に加速し、一瞬にして到着した。今回の目的地は、こちらもお久しぶりの始まりの街、スキルショップだ。


 何故今更スキルショップ? と思うかもしれない。俺自身特にスキル不足に困っているわけじゃないしな、むしろ持て余してるくらいだ。


 それじゃあますます何故、と思うかもしれないが、それは俺がゲットした装備に付いて来たスキルの所為だ。


 俺が新たに使えるようになったスキル、獄絡饒駑ごくらくじょうどは一見、ただのデバフスキルのように思える。


 しかし、その恐ろしい効果は二文目に隠されている。そう、ステータスがマイナスになると、即死する、って奴だ。


 俺はこれを見た時にビビッと閃いてしまったのだ。もし、自前で別のデバフがあったらどうなるんだろう、ってな。


 獄絡饒駑で下がるのはSTRとAGIだけだ。でも、スキルの効果ではその二つがマイナスになったら、ではなく、ステータスがマイナスになったら即死、とある。


 ならば、その二つを含めその他のステータスも下げてマイナスにすればゴリゴリ即死できるんじゃないか、ってことだ。


 ふふ、これは我ながら悪どいと思うが、まあ魔王だからこれくらいが丁度いいだろう。


 ん、悪どい? そういえば何か悪どいスキル持ってたような……? あ、


「ふふ、ふふふっ」


 おっと、気持ち悪い笑いが溢れてしまった。これは本番までのお楽しみだな。これはもう悪どいどころか極悪非道だ。まあ、魔王だから許してくれるだろう。


 それより、早くスキルショップに入ろう。良いスキルが無かったら狸の皮算用だし、店の前でニヤけてるのは魔王じゃなくてただの変人だ。


「ごめんくださーい!」

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