第898話 呆気ない終幕


「……あ?」


 俺は今何をしてる? 戦場にある目という目がこちらを向いている気がするんだが、気のせいだよな? 気のせいと言ってくれ!


「あ、あははー。こ、こんにちはー……」


 クソ、なんで隠遁を解除したんだ? アホなのか俺は? これはもう阿保としか言いようがないぞ?


 いきなりどこからともなく現れたら怪しい以外の何物でもないよな? 俺の魔王人生詰んだか?


 いや、まだ完全に詰んでる訳じゃ無い。こんな所で終われない。最後の最後まで醜く足掻かせてもらうぞ。今の俺の服装は……うん、ちゃんと対人用だな。


 クソ、地獄で発注してる魔王衣装が完成してたら白昼堂々魔王活動できるのに。無いものねだりをしても仕方がない。ここはどうにかプレイヤーサイドで切り抜けるぞ。


「す、助太刀にきましたよー。大丈夫ですかー?」


 くっ、自分の演技力の無さとコミュ障っぷりに辟易するな。魔王のロールプレイなら慣れてるし、恥ずかしく無いのに、プレイヤーの皮を被ってるとどうもダメだな。


 まあ兎に角このイベントをさっさと終わらせて、早く地獄に行かないとな。魔王装備は案外必要性が高い。それは俺の精神を守る盾必ずになってくれるはずだ。


「っ!? ……わ、分かったわ。この蜘蛛をどうにかしてちょうだい!」


 おい、今確実に反応したよな? 反応した上でそれを押し殺して返事をしたよな? 最初の反応以外違和感は皆無だったが、最初の反応が違和感しかなかったぞ?


 だが、ここで突っ込めば自分からやましいことがありますって言ってる様なもんだ。ここは無視して従ってるフリをしよう。


「りょ、了解です!」


 そう言って俺はアスカトル達の相手をする、フリをした。


『よし、アスカトル。このまま俺にやられている感じでそのまま後退していけ。もうそろそろ騎士団長とかが来る頃合いだ。頼むぞ?』


『かしこまりました、キシャ!』


 そんなこんなでプレイヤーと騎士団が合流し、そのまま流れで国に蔓延る魔物達を撃退した。


 魔物達は何故か騎士団が到着すると、糸が切れたかのように弱り、すぐさま撤退したのだった。


 国民達はその騎士団と王様の姿を、目撃しており、全員が国を率いていく王様が必要であると痛感した。


「……」


 これで良かったのだろうか? なんかあまりにも呆気なかった気がするんだが。


 国民もプレイヤー達もそこまで不審がる様子はなかったし、恐らく大丈夫なんだろうな。俺が間違えて飛び出したときは一時どうなることかと思ったが、なんとか乗り切れたみたいで良かった。


 これからはもう少し周りを見て行動しなきゃだな。


 だが、過程がどうあれ任務は完了だ。任務が完了した以上報酬はきっちり貰っていくぞ。後は野となれ山となれ、だな。


「この度、貴殿のおかげで我が一族が再び王家へと再興できた。これに関しては感謝してもしきれないだろう。心より礼を言う」


 俺が再び王様に謁見すると、王様はそう言ってくれた。こんなに丁寧な言葉遣いをしてるってことは本当に感謝してるんだろうな。


 うんうん、苦しゅうない、苦しゅうない。


「そこで、我から褒美をやろうと思う。好きな物を与える、望みは何か?」


 王様からとうとうその言葉がでた。


 来たー! 俺は心の中で狂喜乱舞した。この時の為に俺は失明しながらもなんとかやりくりしてこの王様についてきたんだ。嬉しく無いはずがない。


 まあ、報酬が貰えるってだけでも無条件で嬉しいが。


 しかも、今回は報酬を特に指定されていない。つまりは何でもいいってことだ。これはヤバい、考えなくてもヤバいものだ。


 だって、普通はそんなことってあり得ないからな。無限の富も最強の力も手に入れることができる。それだけでもウハウハ物だろう。


 しかし、この報酬の真髄はそこにはない様な気がする。だって、富も力も自力で手に入れられる物だからな。この王様にしかできないことをさせる方が得と言える。


 しかも、王様は今財政状況がよろしくないはず。ならば懐に優しい提案をすることで俺の評価は更に爆上がりするって訳だな!


「では王様、どうか私の国の承認をしていただきたいのです」


「国の承認、だと……?」



「条件を達成しました。エクストラ大規模クエスト『国家建設』が開始されます」



 ……ふぁっ!?

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