第891話 男の言葉
ある男を先頭に一つの大きな集団がブディオス国のすぐ近くに形成されていた。
その雰囲気は見るからに陰湿でおよそ良いことが行われないてますあろうということは窺える。
「本日、皆さんに集まって貰ったのは他でもありません。私が極秘に情報を集めていた大規模クエストについて、です」
男がそう発言すると、その集団に響めきが発生した。大規模クエスト、それはその言葉一つでそれほど衝撃を与えるほど、プレイヤー達が渇望しているものだった。
最初に確認されたのはいつだったか、普通にクエストに比べて、必要人数が大幅に必要になり、難易度も高くなったものだ。しかし、それだけ報酬も美味しい、と評判だった。
だが、そんな美味しい案件がいくつも存在するわけでは当然無かった。
このゲームがリリースされてそこそこの年月が経つものの、今までに発見された大規模クエストは片手に収まるほどだ。
そこにいた人たちにとって、それほど希少な存在である大規模クエストが男の口から出てきたのが信じられなかったのだろう。
「皆さんには突然のことで申し訳ありませんが、安心してください。皆さん全員に参加する資格があります。私としては全員に参加して欲しいのですが、皆様いかがでしょう?」
男はそう口にはしたものの、その表情では皆が参加することを確信しているようだった。
「あのーウィズさん。報酬にはどのようなものがあるのですか?」
集団の中から一人の質問者が現れた。
その質問に対し、前に立つ男は一瞬、面倒臭そうな顔をしたものの、すぐさま柔和な声に切り替え、説明を開始した。
「それについては今はお答えできません。というのも、私自身も知らないのです。今回のクエスト依頼主は一国の王です。ですので、莫大な報酬がもらえる言葉確約されているのでしょうが、具体的に何を、と問われると私にも分からない、が答えになります」
その発言に集団の騒めきはさらに大きくなった。更に男が続ける。
「こんな不確実なクエストに強制参加させるのは私としても喜ばしいことではないので、不信感がある人や、少しでも疑念のある方は不参加でも構いません。ただし、後からよこせ、というのも当然無しですよ?」
男はそう締めくくった。この言葉によってここにいるほぼ全てのプレイヤーが参加することが決まった。
ほぼ、というのはこの男の言葉を信じ切れない者が数名、その中にいたからであった。
「ウィズ殿、私たちは今回不参加でもいいだろうか? というか、今日この場においてシャーク、アークは共にこのクランから抜けることを宣言する」
「ほぅ、それはまた急な用件ですね。今回の大規模クエストも放棄されるのですか?」
「無論、そのつもりだ。というわけでこれからは自由にさせてもらうぞ」
「おやおや穏やかではありませんね。もしかして、私たちから情報だけを抜き取って自分たちだけで先駆けしようとしているのですか?」
「ん? 大規模クエストなのだろう? 私たちだけで受けることなど天地がひっくり返っても無理なはずだぞ」
「それはお二人だけなら、ですよね? 協力者を募れば或いは可能なのではありませんか?」
「そこまで疑うか。まあそれもそうだな。私たちはウィズ殿の言うクエストには参加しないことを約束しよう。それで良いか?」
「ふむ、分かりました。ではそれで手を打ちましょう」
「では、これで失礼させてもらう。達者でな」
「えぇ、また会いましたら。その時はよろしくお願いしますね」
そう言った男はどこか含みのある笑顔でそう別れを告げた。
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