第889話 魔王の眼鏡

メガネくん視点です。(因みに彼は今主人公に頼まれて魔王城を改装しておりました。

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『もしもしーメガネくーん? 調子はどう?』


 うぎゃっ! ま、魔王陛下!? 最近やけに連絡が来る、もしかして僕の仕事に不安を覚えていらっしゃるのだろうか?


 不味い、それは不味いぞ。ただでさえ、まともな成果の一つも残していないのに、せっかく下さったチャンスをみすみす逃すなんてことになれば、陛下の落胆もきっと激しい。いや、もしかしたら最悪クビ、なんてことも……


「ひゃっ、はい! な、なんでしょう陛下!」


『いやーちょっと聞きたいことがあってだな、そのついでにそっちの調子も聞いておこうと思ってな』


「そ、そうでございましたかっ! こ、こちらは至って順調です! ただいま第三層の仕上げに取り掛かっており、もうすぐプレイヤーに向けて開放できるかと思います!」


 まあ、実際の所は一、二層は陛下が既に作ってくださった下地があったから楽に仕上げられただけで、実質僕の仕事内容は三層の改装だけだ。これだけ時間があったのにも関わらずまだそんなところまでしか終わっていないのか、とお叱りを受けるかもしれない。


 嘘の報告をすれば良いじゃないかという意見もあるかもだが、それは絶対に許されない。僕が陛下にお仕えする以上、誠心誠意向き合わなければ意味がない。それに陛下はきっと見抜いてくるだろうし、いずれにせよバレることだ。嘘はよくない。


『おー、そうか順調そうで良かった。この調子で頼むぞ』


「はっ、はい!』


 な、なんとか陛下の不興を買うことはなかったみたいだ。でも、このままチンタラやっていたらいずれは雷が落ちる。急ピッチで進めていかなければ。


 それに、陛下は聞きたいことがあるとおっしゃっていた。恐らく状況確認は二の次で本命はきっとこっちだ。これで僕の評価が決まると言っても良いだろう。ここは一先ず、集中しろ!


『それで、聞きたかったことなんだが、生身の人間が宇宙に行ったらどうなると思う?』


 これは……? 前回も似たような質問をされた。その時はなんのことだかよく分かっていなかったのだが、今思うと、この質問にどう答えるか僕を試しているんじゃないだろうか。


 非現実的な状況の問題を出すことによって解答者の想像力を問う問題だろう。どれだけそのシチュエーションを鮮明に、リアルに想像できるかが鍵となる。前回は知識で応えることができたが、今回は残念ながら全く知らない知識だ。


 ならば想像力を働かせて解く以外に方法はない。


 生身の人間が宇宙に行く、このフレーズを聞いて普通ならば、体が凍るとか気圧の差によって体が爆発する、なんて答えが思いつくだろう。だが、陛下が普通の答えを求めているはずがない。そんなことは誰でも思いつくからだ。


 なら、それは間違いであり、リアリティが無いということになる。


 じゃあ、何が答えだ? そもそも体が爆発するっていうのは気圧が問題とされているんだろう? でも、周りの気圧が下がっていけばそれに合わせて自然と体の方でも調節してくれるはずだ。出なければ高山に行くだけでも人間にはキツいはずだ。


 ということは、体が爆発する可能性はテレポートで宇宙に行かない限りまずないはずだ。


 ってことは、シンプルに真空状態による窒息? これでいいのか? こんな簡単な答えになるのか? 考えろ、考えろ!


 あ、もしかして、、、?


「生身の人間が宇宙にいくと、単に真空状態によって窒息死してしまうと思われます。しかし、それを防ごうとして、息を止めると、つまり肺に空気が溜まった状態にすると、それらの空気が膨張して肺が損傷する恐れがあります」


 そう、これは一段階のひっかけに見せかけた、二段ひっかけ問題なのだ。ちゃんとリアルにその場を想像し切らないとこの可能性は見出せないはずだ。ど、どうだろう、なんだか急に心配になってきた……


『なるほど……分かった、ありがとう。また何かあれば連絡する』


「はぁ、ふぅーー」


 耐えたー。本当に心臓に悪いよ陛下は。抜き打ちテストなんて今時学校でもそうそう行われないのにー。


 まあ、だからこそ陛下の下はスリルがあって面白いんだけどね。


 でも、反応を見ると、僕の答えから何かが分かったって感じだった。つまりはやっぱりあの質問を通して僕の何かを探ろうとしてたってことだ。


 陛下のお眼鏡に敵えばいいんだけど、、、とりあえずは今、自分に割り当てられた仕事を全力でこなすしかない、かー。


「よし、皆さんちょっと集合してください! プレイヤーが侵入してきた時の訓練パターンFを行います! このパターンではプレイヤーに上手く攻略させて調子に乗ったところを全力で潰す作戦になります。今までのパターンの中でもかなり重要になってくるので心して覚えてくださいね! では始めます!」


 僕は僕のできることを魔王陛下の為に全力でやるだけだ。

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