第876話 上陸

胡散、辛気臭い、魔法使いのウィズさん視点です。

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「っしゃぁあああ!! やっと着いたぁああああーーー!!」


「初手から相変わらず騒がしいですねアッパーさん、もう少し落ち着いてもらえませんか?」


「あぁん? ずっと落ち着いていただろうがよ、船の中でぇ! 俺はもう戦いたくてウズウズしてんだよ! おいドラケちょっくら狩りに行くぞぉ!」


「待ってください、ここではぐれられたらいよいよ厄介です」


 そう言って私はアッパーさんの襟を掴んで力づくで引き止めた。まあ、彼に本気を出されたら流石に魔法使いの私じゃ止められませんが、そこまで分別がないわけではないでしょう。


 でも、確かに海の上があまりにも退屈でしたね。海賊が襲ってくる、とまでは思ってませんが、モンスターの何匹かくらいエンカウントしても良いと思っていたのですが……今から新天地に向かうというのに何も歓迎がないとは、逆に不気味です。しかし、まあここであれこれ考えても仕方がないですね。先に進めなくては、


 それに、アッパーを引き止めている私の右腕がそろそろ限界を迎えそうです。


「では、これからのことについて説明しますね。まずはアッパーさんもこんな状態になっていますので、ひとまず自由時間と致しましょう。その間に私はクエストの受注に行って参ります。皆さんは好きなように観光なり狩りなりを行ってください。


「おっしゃあああああ行くぞ、ドラケぇええええ!!」


「お、っちょ待っ!」


 そう言ってアッパーさんは駆け出しました。流石にドラケさんはアッパーさんより細胞の数は多いようで、私の方を向きました。おそらく、再集合時間を気にしているのでしょう。もしかしたらアッパーさんと一緒にいたくないだけかもですが。


「大丈夫ですよドラケさん、用事が終わればすぐにクラン全体にメッセージを飛ばします。ですので皆さんもお気楽に遊んできてください! 特にスケジュールが決まっているわけでもありませんしね」


 私がそう言うと、ドラケさんだけではなく、他のクランメンバーもチラホラとこの場を離れて行きました。そして最終的に残ったのは私を含めて四名。


「ん、シャークさんとアークさん、どうなさいましたか?」


「何、一人だけに負担を負わせるのはよくないと思ってな。私たちは特にやることもやりたいこともなくてなどうせなら着いていこうと思ったのだ。有事の際は助けになるだろう」


 私が尋ねると彼らはそう答えました。表面上では私を気遣った発言をしていますが、その実私を警戒してるのでしょうね、一人で利益を独占しないように。また、裏で勝手なことをされては困ると思っているのでしょう。


 彼らはクランの中で唯一私を完全には信用していない方達です。いざとなれば実力行使も辞さない覚悟ですが今はまだ使えますからね、焦る必要はないでしょう。まだ本格的に敵対しているわけでもありませんしね。ただ、もう一人は別です。


「良いでしょう、そうしてくださると私もとても助かります。ところで、ブラックさんはこの後どうなさるのですか?」


「……」


 そう、彼だけは流石の私にも手に負えない。基本的に無口で自分の意見は発しないのですが、その故非常にやりにくいのです。私の右腕となってくれるのならば話は別ですが、今はまだ敵とも味方とも言えない状態です。


 であるならば、彼を警戒すると言う意味を込めて、一緒に同行するのも悪くないですね。どの道一人で行く道は閉ざされてしまったのですから。


「もし良ければですが、一緒に向かいますか? 私も見知らぬ土地です、戦力は多いに越したことはありません」


「……」


 またもや無言。基本的にブラックさんは返事をしませんが、それは私たちに従わないと言う意味ではなく、むしろ私たちについて来てくれます。しかも今回はわかりやすく首を縦に振ってくれました。彼も気に食わないことがあれば首を横に振るでしょう。まだその光景を見たことはありませんが。


「では行きましょうか、さて、一体何が待ち受けているのでしょうか?」

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