第875話 残念な貴族


 俺たちは全員揃って、朝食の場に出席した。さて、この屋敷の主がどう反応するかだが……


「なっ、何故ここに……!?」


「ふん、ということはやはり貴様も一枚噛んでいたということか。泳がすまでも無かったわい。さあ、事情を話してもらおうか」


 王様が王の風格を持って、貴族にそう問いただした。その姿は昨日の貴族と仲良くしている王様とも、爆音でいびきを書いていた王様とも違った、民を納める顔だった。


 それは一介の貴族に耐えられるプレッシャーでは無かったようで、彼はヘナヘナと地面に座り込んでしまった。そして彼は事情を説明した。いや、説明というより独白に近かっただろうか。


 彼が発した内容は、予想以上に壮大なものだった。


 まず、貴族が発言したのは自分の意思ではない、というものだった。まあ、もっとぐちぐちネチネチしたものだったが。


 貴族を操作、あるいは指示を出すことのできる立場ともなればその候補はかなり絞られる。この貴族の立ち位置にもよるだろうが、ほぼ一つと言ってもいいだろう。


 つまり、他国の王が実質的にこの王様を暗殺しようとしていた、ということだ。これはかなりの大問題ではないだろうか。まあ、それをこの国の王に問いただしたところでしらばっくれるだけだろうが。


 そして更にその貴族は自分は何も知らなかった、と発言した。でも、それはさっきの反応からわかる通りありえない。でなければ、王様が姿を現した時に驚くなんてはずがないからな。


 その後も説明というよりも言い訳に近い戯言が繰り返された。


「……」


 なんか、この貴族、残念だな。これが全て演技ならば相当なやり手だが、俺が声だけで聞く限りより大きなお存在に利用された悲しい人間だとしか思えない。王様たちもそう思ってるみたいで、


「陛下、この者たちの処分はいかがしましょう」


 という騎士長の問いに対してうまく答えることができないようだった。確かに、一度は命を狙われた身であるものの、この家に世話になったのも間違いない、少しばかり悩んでしまうのも無理のない話か。


「では、改めて聞こう。貴様は我の味方となるのか、それとも敵となるのか、答えよ」


 王様はそう尋ねた。味方ならばある程度のことは見逃すし、敵ならば容赦はしないという意思表示なんだろうな。


 相手の貴族としても現状の戦力差は、昨日の襲撃が失敗した時点で、こちら側に大きく劣っていることはわかっているだろう。ここで敵であると発言する勇気はなかったようだ。


「み、味方です……」


「よし、では貴様らの処分は一旦、見送らせてもらおうか。ただ、二度はないぞ」


 処分しない、ではなく、見送る。これはまだまだ彼らを信用していないということだろう。まあそりゃそうだな。それに対して貴族は力なく頷くことしかできなかったようだ。いや、頷いているかどうかは分からないが、返事がなかったからあくまで推測だな。


 ピロン


 やっと一段落ついたな、そんな一息つこうとした瞬間だった。俺の脳内に聞いたことはあるものの、聞きなれていない音が鳴った。俺は体をビクッと反応させてしまった。恐らく周りから変な目で見られたことだろう。


「エクストラクエスト『手違いの再興』が開始されました」


 ……ん?


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