第874話 彼女の決断
イチゴちゃん視点じゃないです。(三人称でお送りします
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「うっ……ここは?」
彼女は違和感を覚えながら目を覚ました。普段の死に戻りでは感じることのない不快感が彼女を襲っていたのだ。
「ひっ、な、なんですのこれは!?」
彼女の体には粘性の高い液体が付着していた。それが不快感の一因となっているのは間違いのないことだが、その正体が彼女をここまで運んできたモンスターの唾液だと言うことを知れば更なる不快感が襲ってくるだろう。いや、嫌悪感というべきだろうか。
そして、不快感の原因となっているものはその唾液だけでは無かった。
「ふむ、ようやく目覚めたか。矮小なる人間よ」
「ひゃっ! だ、誰ですの!」
彼女は漸く気がついた、目の前の存在に。更に彼女は思い知ることとなった、その存在がとんでもなく出鱈目だと言うことに。
「誰であるか、か。我を知らぬとは随分と無知な人間のようだ。水魔術が使える者がいると知って連れて来させたものの、期待外れであったか」
「な、なんですって? 水魔術、連れて来させた? い、一体どう言うことですの!」
彼女はひどく狼狽していた。彼女は比較的賢い——それは学業が優秀であるに留まらない——のだが、それでも自分が置かれているこの状況を瞬時には理解できなかった。
「先ほどからピーピー、ピーピー五月蝿いぞ。人間は自分で考えると言うことも忘れてしまったのか。はあ、なんと嘆かわしいことよ。だが我は寛大だ。故に貴様に選択肢をやろう。強くなりたいか?」
彼女は雷が直撃したような衝撃を受けた。その言葉は、いかに彼女が狼狽していようとも、意味が分からないものでは無かった。いや、寧ろ鮮明に理解できたと言うべきだろう。
圧倒的強者のオーラを放つ存在から、強くならないか、と言う提言。それは強さを常に求め続けている彼女にとっては、抗いようのない魔力を秘めたものだった。
だが、それを鵜呑みにするほど、彼女の理性は機能していない訳では無かった。
「貴方が私を強くしてくださるんですの? でも、タダではないのでしょう? 対価はなんですの?」
「ほう、やはり興味はあるのか。そして、無償の力など存在しないこともよく知っておる。少しは賢い人間のようだな。いいだろう、条件を教えてやろう。貴様を強くする代わりに我が求めるものは……」
ゴクリ、
誰か第三者がその場にいたのならばそんな音が聞こえてきたことだろう。それほど彼女は緊張していたし、目の前の存在が放つオーラに圧倒されたのだった。
「我の眷属となるのだ」
「け、眷属!?」
「そうだ、我の手足となり我の望みを叶えるのだ。我は今訳あって、この地に封印されておるのじゃ。であるから故、我に忠実なる
彼女の中でほとんど答えは決まっていた。だが、それでも迷ったのは眷属、と言う聞き慣れない言葉にあった。
「ではいくつか質問してもいいかしら?」
彼女はその聞き慣れない言葉に対して質問という選択をとった。
「さっきから質問ばかりだな貴様は、少しは自分で考えろ。といいたいところだが、私は今気分が良い。いいだろう、三つまでなら答えてやろう」
「ありがとうございます、ですわ。ではまず一つ目、眷属になることのデメリットはなんですの?」
「ふっ、まず最初にデメリットを問うか。我が素直に答えるとでも思っているのか? まあ良かろう、眷属になれば我の力が使えるようになる代わりに、他の魔法が使えなくなるだろうな。我が許可しないし、他の奴らも嫌がるだろう」
この質問で彼女はこの世界の一端に触れた。しかしそれを意識することなく次の質問へと移ってしまった。
「じゃあ、眷属になった私に貴方は何を求めるんですの?」
「うむ、当然の質問だな。私の細やかな望みを叶えてもらうと同時に、我の封印を解除する手伝いをしてもらうぞ」
「では、最後に、貴方は一体何ものなんですの?」
「漸く我に興味を抱いたか。最初に聞くと思っていたのだが、まさか最後に聞くとはな。我の名はポセイドン、大海を司る神だ」
「ひっ……」
その圧倒的なまでのオーラに彼女は萎縮する他なかった。そして、それと同時に覚悟を決めたのだった。眷属になることを。
「よ、よろしくお願いします……ですわ」
「ふむ、良いだろう。では、用があればまた呼び出す。その時まで精々首を洗っておくのだな」
その言葉を皮切りに彼女の意識は遠のいていった。
「ふっ、いつの時代も人は力を求める。そして同じ過ちを繰り返すものよ」
彼女はほとんど失っている意識の中で、そんな声を聞いた気がした。だが、その小さな意識の灯火すらも、すぐさま迫り来る激しい濁流に飲まれ、彼女は完全に意識を失った。
ーーースキル【海神魔術】を獲得しました。
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