第873話 感謝と真摯


 俺はメガネ君から貴重かどうかよく分からない情報を貰った後、流石にベッドの上で夜を過ごすのが辛くなったので、一度ログアウトして翌日、再びログインした。


 いやー、にしても目が見えるって普通のことじゃないんだな。ログアウトしてこんなに感動したのは初めてたぞ。本当に生きてることといい、目が見えることといい、感謝しないとな。


 そんな訳で俺は感謝の念仏(エア)を唱えながらログインすると、俺はベッドの上で朝日にさらされていた。いや、実際にさらされていたかどうかは定かじゃないが、ほんのり暖かかったから、多分そうだろう。


「えっ!?」


 ガバッと身を起こした俺は、周りの音から騎士長を含め護衛が起きて支度を始めていることを察した。こ、これは、俺がログアウトした次の朝、ってことでいいのか?


 怪しまれないように周囲の様子を感じ取ってみると、護衛の方々は普段通りだが、騎士長だけが少し落ち着きがない。と言うことは昨日のことを引きずっているのだろう。つまりまだ俺が知らない朝は迎えていないってことだ。


 よし、それなら一先ずオッケーだな。恐らく、この場所というかイベントがインスタンスエリア的な扱いになってて、俺に合わせて時間を進めてくれているのだろう。なんて親切設計なんだろう、これも感謝だな。


 ん、ってことは今から自分たちの命を狙ってきた貴族とご対面ってことか? 不味い、自分でそう仕組んだはずなのにまだ全然心の準備ができてないぞ!?


 ってか、なんで夜の段階で処理しなかったんだろうか。あ、そっかあの時点ではまだ確定黒ではなかったからか、万が一にもないとは思っているのだが、もしかしたら全く別の方向から刺客が向けられている可能性もある。


 それを今日朝一直接会ってみることで確認しようって訳だな。よしよし、だんだん昨日の記憶と考えが蘇ってきぞ。


 これから俺がすべきことは貴族が本当に敵かどうかの確認、そして王様たちの護衛だな。


「お、起きていらっしゃいましたか。これから朝餐でございます。ほ、本当に陛下の安全は確かなんですよね?」


 騎士長が声を潜めて俺にそう尋ねてきた。どうやら他の護衛には行ってないらしい。確かに余計な混乱を防ぐにはそちらの方が良いかもしれない。


 それに、騎士長がものすごい敬語を使ってくれる。昨日助けられたことがそんなに心に刺さったのだろうか? 最初の感じからすると俺は受け入れられていないように感じたのだが、嬉しいな。


 でも、騎士長ってそのことって知ってたっけ? 俺は秘密裏に処理したと思っていたのだが。まあ、丁寧にしてくれる分にはいいか。俺も何か困るわけではないし。


「はい、大丈夫でしょう。騎士長様と私が手を合わせれば必ずや敵を迎え撃つことができましょう」


 丁寧な人には丁寧に返す。これが礼儀、これが紳士と言うものだろう。うん、第三ジョブは紳士でもいいかもしれないな。


「分かりました。ですがもしもの時は……」


 この騎士長様は意外と小心者らしい。いや、彼の名誉の為に慎重者と言うべきか。いや、まあ王様の命がかかっている訳だし小心者は言い過ぎだな。これは謝らなければな、心の中で。


「大丈夫ですよ、もしもの時は私が時間稼ぎを致しますのでその間にお逃げください」


「はっ、ありがとうございます!」


 まあ、そうなる可能性はほとんどないと思っている。魔王がどこの馬の骨とも分からない貴族に負けていたら名折れもいいところだからな。


 俺自身の名誉の為にも全力で叩き潰してやる所存です!


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