第869話 室と床と人


 ガチャ


 俺が王様を実質支配下に置いた後、この部屋に入ってきたのは敵ではなく、騎士長だった。一連の騒ぎで目覚めてしまったのだろう。


 敵の本丸よりかは何倍も良かったが、一歩間違えば俺が王様に何かしたことがバレてしまうかもしれない。注意してことを運ばなければ。


「お、おい! ここで何をしているっ!」


 俺はまず、音量を抑えるようジェスチャーしてからゆっくりと小声で、真実九割、嘘一割で状況を説明していく。もちろん嘘の部分は魔王勅命の部分だ。その部分を王様が理解してくれた、という体で話を進めた。


 まあ、今の王様は理解してくれてるだろうから、嘘はついてない、うん。騎士長がいくら確認をとっても王様は頷く以外にない。そして、さらに今は普通に振る舞え、という指示をから出された。


 騎士長は渋々、と言った感じで部屋に戻っていった。俺ももちろん何事もないかのようにひっそり帰った。王様の寝室から俺たちの寝室までは全然距離がないのだが、その短い間に騎士長様から話しかけられてしまった。


「私の寝床の側に転がっていた死体は貴方がやってくれたのだろう? 本当にありがとう、これだけは感謝させてくれ。先程の王様の反応から見てもとても信頼されているようだった。騎士長として頼りないことこの上ないが、これからも王様のことをよろしく頼む。もし、何か私に手伝えることがあればいつでも言ってくれ。今回、私の命、いや王様の命を救ってくれたのは貴方だ、いくら感謝してもしきれないだろう」


 という風に物凄く感謝されてしまった。なんか、むず痒いというか、申し訳ないというか。確かに救ったのは事実なんだけど、王様から信頼されてる、って部分は偽の部分だ。


 俺としてはこれから格段に動き易くなったのは事実だが、それと同時に少し心も痛んでしまうな。騎士長から信頼されてしまったからには確実に王様、そして騎士長を含めた全員で無事に帰還して、王族の再興を果たさないとな。


 俺は自分のベッドで横になって、今回の行動を振り返ってみた。


 今回、何故そのままカチコミに行かなかったのか、それにはいくつか理由がある。それはまだここの貴族が確実に黒幕とは言えないからだ。十中八九関与しているとは思うが、下手人が全く別の組織の人間で、貴族さんはその隠れ蓑にされているだけ、という可能性もあるからな。


 それに、まだ何もされていないのに反撃する、というのはただの敵対行動にしかなりかねない。相手からちゃんと面と向かって喧嘩を売られた時に初めて買うべきなのだ。


 だが、このまま待っているだけでは相手に再び先手を取られかねない。であるならば、ここは俺も情報収集をしておきたい。騎士長に怪しまれない範囲でなければならないが、スキルを発動し、周囲の情報をなるべく多くゲットしていく。


 分割思考もフル稼働させて、ほぼ全ての情報を分析することによって敵がどこにいるのか、お相手さんの貴族が今何をしているのかを探っていく。


 俺は横になったまま、目を瞑って、集中していた。いや別に見えてないから瞑る必要はないが気持ちの問題だな、


「はぁ、はぁ、はぁ」


 俺は知らず知らずのうちに息が上がってしまっていた。かなり体に負担がかかったのだろう。今までにないくらいの範囲と深さで実行してしまったからな、無理もない。


 だが、これで重大なことが一つ分かった。


 相手の貴族は今、、、寝ている。


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