第865話 辛気胡散臭
魔法使いのウィズ視点です。あの、クラン抗争の最後で主人公に負けた奴です。
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ーーーザクロ一行が出発してから程なくして
「では、行きましょうか」
「おいおい、行くってどこにだよウィズ。俺ぁ今から強敵をぶっ飛ばすっていう大事な仕事があるんだが」
「そこには恐らく強敵もいると思いますよ、アッパーさん?」
「マジか! なら行くしかねーよな! おい、何モタモタしてんだ? さっさと行くぞ!」
「はぁ、全くこれだから脳筋さんは……」
「ん、なんか言ったか?」
「いえ、何も? では皆さんも一緒に向かいましょうか」
今回、私たちが向かうのは極東の地、まだ誰も到達していないと言われる場所です。チラホラと情報が出回ってはいるものの、実際にそこに到達したという情報はまだありません。まあ、実際に行ったとしても自ら吹聴するようなことはしないでしょうが。
ん、急いで行かなくていいのか、って? 安心してください。私は更に独自に情報を開拓し、その極東の地では何やら国単位での大事が起きるようなのです。詳しくは聞いてないのですが、そこで私は一つのアドバイスをもらいました。
それは、人は多ければ多いほど良い、と。
これを聞いた私はいち早く準備に取り掛かりました。運の良いことに私たちはクランを結成していましたのでそのまま大人数で、向かうことができるのです。いやー、コツコツと地道なクエストを消化した甲斐がありましたね。
私の、いや私たちの目標は打倒、あの人です。彼を倒さないことには最強の名は語れない。ならば全力で倒す他ないでしょう。しかし、その差は歴然、それはイベントを見ても分かることです。
ですので私は戦う方向性を変えたのです。今は強さで勝てないのならば、私は情報で勝つ、と。
ですので地道なクエスト消化はもちろん、クラン総出であらゆる情報を探らせているのです。もちろん、彼も同じことを行っている可能性は否定できませんが、イベントで優勝した彼がそこまで血眼になってするでしょうか?
勝者の唯一の弱点は勝ってしまったことなのです。勝ってしまった後は誰だって油断する、それは彼も例外ではないでしょう。そこの差が、明暗を分けると言っても過言ではないのです。私たちの敗北が、私たちを前に進めるのです!
「おいおい、どうしたんだウィズ、なんか辛気臭せー顔してんぞ? 大丈夫か? 一発ぶん殴ってやろうか?」
「遠慮しておきます。さて、では出発しますよ? 長い航海になることでしょう、道中には様々な強力なモンスターが立ちはだかる事でしょう、準備は万全ですか?」
「あったりめーよ! どんなに強えー奴が来ても俺がぶっ飛ばしてやるからよ!」
私は今まで、自分だけが強くなれば良い、そして最強になれば良い、そう考えていました。その為に使えるものはなんだって利用してきました。
でも、それではダメだと確信したのです。あの人はもはや個人で太刀打ちできる範疇を超えています。ならば仲間を作り、軍を率いて戦う他ないでしょう。そうして行くうちに私自身も強くなっていくはずです。
今は、他人を利用する気持ちがないと言えば嘘にはなりますが、一緒に協力し切磋琢磨し合うことの方が効率が良い、私がそう判断しているウチは精々活用させてもらうことにしましょう。私があの男を倒すまで。
「では皆さん、果てしない旅路の始まりです。ですが、これに勝利すれば間違いなく最強クランへの道が開ける事でしょう!」
「……なんかウィズ、お前変わったか? なんか胡散臭セーな」
「、、、それは元からですよアッパーさん」
「それもそうだな」
ふっ、これだから。
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