第864話 判定眼


 お、どうやら目的地に到着したみたいだ。その後も適当に質問をしてたり雑談してたりしてたのだが、特に有益な情報は得られなかった。


 まあ、革新的な質問をしていないだけ、と言われればそうなのだが、あまりがっつきすぎる必要もないかなと思ったのだ。


 だが、一つ驚いたのは、俺はずっと王様と話していると思ってたのだが、俺が会話してたのは騎士長だったらしい。それを知ったときに驚きの表情が顔に出ていなかったか心配だ。普通に考えれば俺は護衛として配属されているわけだし当然の流れだろう。


 王様自らお手を煩わせる必要もないからな。安全上の配慮もあるだろう、俺もまだ完全には信用されていないだろうし。でもそのおかげで騎士長様とは幾分かは仲良くなれたと思う。この関係を最後まで維持したいものだな。


 それと、俺は途中でその国の鎧に着替えさせられた。流石に武装解除した状態じゃ不味いと言うのと、一番は見た目の問題だろう。王様を乞食が守っているとなれば威厳に関わるからな。


 自前の装備を使っても良いのだが、無駄に警戒されるのも望まないし、プレイヤーから目立つのも避けたい。俺としても好都合だ。


 そしてその装備はなんと、フルプレートアーマーらしく、視界も大きく遮られる装備のようだ。それも今の俺からすれば欠点にはなり得ないから上手く噛み合ったと言えるだろう。


 ただそれを抜きにしても非常に動きにくい、と言うのがある。よくアニメや漫画でフルプレートは出てくるのだが、こんなに動きづらい格好で皆戦っていたのだろうか。これはもう尊敬に値するぞ?


 あ、だからみんな槍を使ってたのか? あんまり動きが少なくて済むから、だろうな。俺もハルバートがあるけど、あれは魔王装備だからなー。ま、素手でいいか。


 馬車を降りて程なく歩いていると、どうやら匿ってくれる貴族のお屋敷についたようだ。門の開く音から、屋敷自体も相当大きいのだと思われる。ってことはこの貴族は結構爵位も高いのだろうか。亡命しているとはいえ王族と繋がれるのだから結構高いのだろうな。


 ただ、爵位と言うとどうしても悪魔のイメージの方が強くなってしまうんだよな。流石にその貴族が悪魔、ってことはないだろうが、少し怪しさは感じているから、俺としても厳重に注意しておこう。


「ようこそいらっしゃいました。ブディオス公国の皆様。ささ、立ち話もなんですから中に入ってください」


 そう言って俺たちは屋敷の中へと案内され、そのまま夕食を食べ、そのまま部屋に通された。俺たち一行は全員で十名足らずしかいないからなんとかお世話になることができたみたいだが、普通に考えれば十人でもかなり多いぞ?


 だって、家に友達が十人来るって考えたら相当だぞ? 遊びに来ただけでもパンパンなのに寝泊まりもさせるとなるともう不可能だ。それを可能にしている屋敷の大きさと、この貴族の経済力、敵になれば厄介なことこの上ないな。


 人は何かしら自分にメリットが無ければ行動しないと俺は思っている。つまり、ここの貴族はこの王族を匿うことで何かしらの利益があるわけだ。それは単に王族に恩を売ることができる、程度であればいいが、必ずしも王族だからと言って再興できるわけではない。


 ……まあ、それに関しては俺も一緒だが。内側から働きかけられる俺とは違って、貴族さんは全くの他人だろう? 何か策はあるのだろうか。もし、味方でこの王族の再興を目論んでいるのならば俺としても協力して行きたい。


 となるとやはり、目下の課題はこの貴族が俺たちにとって無害か有害か、それの判別に限るな。この判断が遅れて仕舞えば、時が来たときに出遅れてしまう可能性がある。


 今の段階では特段怪しいとは感じなかったのだが、視覚が奪われている今だからこそ気づけることもあるかも知れない。常にスキルをオンにして見張っておこう。


 そう、決意を胸にして、俺はフッカフカのベッドに横たわった。ん、俺の家のベッドの五百倍くらい寝心地が良いぞ?

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