第863話 質問攻め
俺たち一行は移動を開始した。足裏から伝わってくる感触では、恐らく森の中を歩いていると思われるのだが、このまま徒歩で移動なのだろうか。いくら王様とは言っても亡命するとこんなもんなのか。
と思ったけど流石に違った。程なくして馬車に乗っちゃった。流石に移動してただけみたいだ。
よし、では早速質問タイムと行こうか。
「皆さんはもともと、何という国を治めていらしたのですか?」
適当な敬語を使っているから、合っているかが非常に不安だ。いつもは王様の立場だし、最近は敬語を使う場面なんてほとんどないからなー。かと言って、王様特有の鷹揚な口調も慣れてないのだが。
「はい、私たちはブディオス公国、という国の者です」
ブディオス公国、かー。ブディオスがどういう意味か分からないし、公国という意味も分からない。現実世界にも公国って存在するのだろうか? ま、いいか。次の質問に行こう。
「では、今から助けを求める国はなんという国なんでしょうか?」
「はい、今向かっているのはラジャン王国、と呼ばれている国であります」
ふむふむ、今度はラジャンに、王国かー。ますます謎は深まるばかりだな。でも、これで俺が仮に完全に行き詰まったとしても一度死んでからここに戻ってくることができそうだ。名前さえわかれば後は調べるだけだからな。
欲を言えば俺が今まで生活していた国の名前を知りたいのだが、その国をどうやって表現すればいいか分からないから、一旦お預けだな。
「ふむふむ、ありがとうございます。では、なぜブディオス公国は反乱が起きたのでしょうか? あ、もし答えにくかったら答えなくてもよろしいですよ、単なる興味本位ですので」
これは際どい質問なだけになかなか踏み込みにくい質問だ。それでもなぜ質問するのかというと、王様に恩を売りたいからだな。なぜ亡命するハメになったのかを知ればどうやって復活するのかを考えることもできるだろう。
どんな些細なことでもいいから情報が欲しい。
「いえいえ大丈夫です、お答えしますよ。それは突然のことでした。ある時から民衆が陛下、及び王族の皆様にあらぬ疑いをかけたのです。最初は小さな不平不満でした。民が納めている税を使って豪遊しているだの、意図的に物価をあげて民衆を苦しめている、などと言った特にありふれた、と言ってはなんですがよくある何の力も持たない言葉でした」
うん、ここまでは容易く想像できる。人間はいつも人の所為にしたがる生き物だからなー。俺もついついしてしまうし、日本と違って特に王様を身近に感じられるこの国ならではの文句、みたいなものだったんだろうな。
「しかし、それがいつのしか、国民に重税を課しているだの、私財を溜め込んでいるだの徐々に尾鰭がつき、挙げ句の果てには陛下のことを売国奴などと言って蔑む輩まで出てきました。そして、気づけば国民が各々武器を手に取り、城へと攻め込んできた、そういう次第であります」
うーん、これがイマイチ理解できないんだよな。ちょっと飛躍しすぎっていうか。普通、そこまで行くか? それに、民衆に不穏な動きがあれば流石に王様と言っても気づくだろう?
これはなんと言うか、この国民の反乱の裏に不穏な陰が蠢いているような気もするが、少なからず王様たちにも非があったのだろうな。完璧な政治を取るのは無理だろうが、それでも国家転覆にまで至るとは考えにくいからな。
何者かの思惑と、不平不満と募らせた国民、そして、それを無視し続けた国、全てが噛み合ってこの結果になったと言うことか。まあ、俺の推測が多分に含まれてるから、王様たちの怠慢かどうかは実際のところわからないが。
まあ、俺としては関係ない。権力を味方につけたいだけだからな。王様の人間性がクズかろうが、政治が下手くそであろうが、それを俺は利用するだけ、魔王は魔王らしく立ち振る舞うだけだ。
ま、もし誰かが俺に爪を立ててきたら、その時はその時でそれ以上の牙、いや剣でズタズタにしてやるからな。……目が見えないから直ぐには無理かもだけど。
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