第862話 破格の報酬


「どうか私たちの護衛になっては頂けないだろうか」


 騎士長との手合わせが終わると、王様から直々に護衛のお願いをされた。こちらとしては少しでもここの人とのパイプが欲しいので願ったり叶ったりだ。


 だが、こんなにも簡単に思い通りに事が進んでも良いのだろうか。王様は更に報酬も用意すると言ってくれたのだが、亡命してるのにそんな報酬なんて用意できるはずがない。


 隠し財産なんかがあれば話は別だが、恐らくこれも先程の手合わせと同様試されているのだろう。手合わせでは俺の実力を、報酬の要求では俺の人間性を測っていると見るべきだ。


 ここで明らかに護衛と見合わない報酬を要求すればすぐさま突っぱねられるだろうし、かと言って、何もいりませんと断っては折角の心遣いを無駄にしてしまうことになる。


 相手が普通の人ならそれで問題がないかもしれないが、相手は王族、恥を欠かせないことも重要になってくる。つまり、金銭的ではない報酬を要求するのがベスト。


 視界が消えたことで、頭の回転まで速くなったのか、瞬時に俺が発言する内容を整え、恐る恐る口にした。どうか、当たっていますように。


「あ、あのー。私はここのことをよく知らないので、情報が欲しいのですが……色々と教えていただけないでしょうか」


 俺がそう言うと、時が止まった。


 いや、皆が一瞬固まってしまったのだ。アンサーを間違えたのか? とも思ったがどうやら違ったみたいだ。


「お、おう、そうであるか。では、護衛についている間、気になることがあればいつでも質問をするがよい」


「はっ、ありがとうございます」


 目の前の王様は、目をパチクリさせながら心底意外そうな顔をしてそうな声色でそう言った。あくまで俺の妄、いや想像である。


 だが、質問権を得たのは非常に大きい。今すぐに質問のマシンガンを放ちたいのだが、流石に俺もそれは不味いと分かる。アイドリングトークならぬ、アイドリング質問から始めるべきだろう。


「あの、早速質問をよろしいでしょうか?」


「うむ、良いぞ。儂が答えられるものであればなんでも答えようぞ」


「ありがとうございます。では、護衛とはどのくらいの期間を想定していらっしゃるのでしょうか?」


「どのくらいの期間、か。儂としては其方の気が済むまでいてもらいたいのだが、そうは言っておられぬ事情があるのだろうな」


 王様のその言葉に俺ははいともいいえとも取れない微妙な顔を浮かべておく。プレイヤーの身として、確実な未来は何も約束できないのだ。


 そして、王様はそのまま俺の返答を待たずに続けた。


「我らは今、西へと向かっておる。国境を越えた先に、以前仲良くしておった貴族がおるのじゃ。当面の間はそこに匿ってもらおうと思っておる。そこへ到着するまでの間、其方には護衛を務めてもらいたい。どうじゃ、任されてはくれないだろうか」


 ふむ、王様と貴族が仲良くしていたのか。しかも別の国の貴族と、か。スパイか何かを任せていたのだろうか。


 何となくキナ臭い気もするが、ただの一護衛である俺が何か言うこともないだろう。それに何かあった時の為の護衛だ。


 それに目的地も決まっているならこちらとしてもやり易い。そこに着くまでの道中で色んなことを聞けるだろうし、そこに着いたらそこでまたこれからの予定を考えれば良いからな。


 いい感じに事が運べそうだ。


 だが、やはり西の国にいるという貴族がなんか気になる。視覚が消えて第六感まで鋭敏化してるのだろうか。


 俺は何とも言い難い違和感を胸に抱いて、そこから出発した。


 ん、そういえば俺ってどんな場所で王様と謁見してたんだ?

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