第861話 あの方との邂逅

騎士長様視点でお送りいたします。

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 私は騎士長、ケイン、陛下の護衛をしているものだ。


 私の主人である我が陛下は、今、国家の転覆により、民から追われている立場である。今まで民衆を率いてきたのが誰か分かっていない、愚かの者たちによって、だ。


 今は亡命されている身ではあるものの、いつか必ず再び玉座に座る時が来る。その時まで今は耐え忍ぶ時なのだ。私はその為に剣を握っている。


 しかし、そんな時に現れたのが一人の奇妙な男だった。


 その男は目が不自由であった。それだけであれば奇妙というほどでもないが、その男が発見された時、その者はリヴァイアサンの肉を持っていたという。


 リヴァイアサンは海龍として恐れられ、崇め奉られた存在。決して人間如きが太刀打ちできる存在ではない。しかし、その男はさも平然とそのお肉を姫様に食べさせようとしたらしい。恐らく、その肉が本物であるならば値千金、いや万金の価値があるのにもかかわらず、だ。


 正直、その話を聞いた時、私は俄には信じることができなかった。何かの御伽噺と言われた方がまだ頷けると言うもの。そんな人間いるわけがない、私はそう思っていた。


 だが、そのような人間は実在した。私はそれを身をもって体感することになった。


 陛下は例え視力を失っていたとしても、リヴァイアサンを倒すことができたその男ならば、護衛に置いておけば使えるのではないかと判断した様だった。だが、だからと言ってリヴァイアサンの肉を持っていたからという理由だけで側においておくわけにはいかない。


 その実力を測る為に私に手合わせを命じられたのだ。


 私はその瞬間までもその男がホラ吹きと思い、偽物であると思っていた。だが、手合わせをした瞬間にその者の異常さを私は痛感させられたのだ。


 目が見えていないにも関わらず、私の一撃を避けたのだ。まあ、それだけならば百歩譲ってありえるとしよう。だが、その男はそれだけではなかった。私の攻撃を一つ残らず回避して見せたのだ。


 最初の方はギリギリ避けていたが、途中からは完全に見切られたのか、余裕を持って避けられてしまっていた。私は騎士団の中で最も強い、その私がここまで圧倒的に負かされてしまったのだ。面目ないことこの上ないが、私が勝てる道理はどこにもなかった。


 この者に、いやこのお方に視力が備わっていたらリヴァイアサンですら容易く勝てるのではないか、気づいたらそんなことまで考えてしまっていた。


 途中から私は胸を借りるつもりで剣を振り続けたのだが、終ぞその鋒が掠ることもなく、私の鼻先に軽く拳を触れさせられて手合わせは終了した。


 全力の私に対して、このお方は終始余裕の態度だった。手も足も出ないとはまさにこのこと、私もまだまだ研鑽が足らなかったようだ。


 だが、このお方がいらっしゃれば陛下、引いては皆の命が安全に保たれることは間違いない、そう確信できるほどの実力だった。


 ただ、一つ懸念点があるとすれば、このお方には私たちを護衛する理由がない、と言うことだ。


 栄華を極めていた頃ならばともかく、今は亡命されている身、大層な報酬なんて用意することができないはず。一族に伝わる秘宝は王様が肌身離さず持っていらっしゃるとは思うが、それを渡すことはできない。


 私がそんな身の程知らずなことを考えていると、狙ったかのように、陛下があの方に護衛について欲しい旨を伝えた。そして、報酬のことも。陛下は何を望む、と聞いたものの用意できるかどうかは際どいところだろう。


 しかも、相手が彼の方となると並大抵のものじゃ済まされないはずだ。


 だが、次の言葉で私は二度目となる衝撃を受けたのだった。


「あ、あのー。私はここのことをよく知らないので、情報が欲しいのですが……色々と教えていただけないでしょうか」


 な、なんと素晴らしき方なんだろうか。

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