第855話 どうしてそうなった
「ってててー」
目を開けるとそこには無が広がっていた。いや、無と言ってもなんだろう、バグって奈落の底とかに来てしまった感覚ではない。ちゃんと地面の感覚もあるし間違いなくここはちゃんとしたゲームの世界である、はずだ。
では、なんで何も見えないのだろうか。地面に手をつくとザラザラとした感触は伝わってくるのに、そこに目をやっても何も見えないのだ。地面どころか自分の手も見えない。仮にゲームの枠を飛び越えてまだデザインされていない場所に来てしまったとしても、自分の体が見えなくなるのはおかしい。
だが、視界上部にある自分のHPを表すバーとかは見えているのだ。これも見えなければ視界に関するバグかとも思えたのだが、そうではないらしい。こうなってくるといよいよもう分からないな。
だがここでじっとしているだけ、という選択肢は取りたくない。ただの時間の無駄だからな。死んで帰るという選択肢もなくはないが、それは最終手段だ。ここはまだどのプレイヤーも到達していない未開の地、という可能性は大いにあると思っているからな。
できることが無くなり、もうどうしようも無くなった時に死を考えよう。
だから取り敢えずは、、、
『おーい、聞こえるかー』
俺は一人偵察部隊のメガネくんに連絡した。これで連絡が取れなかったらいよいよ俺だけどこか異世界にでも迷い込んだ可能性を考慮しないといけなくなるが……
『はい、魔王陛下、いかがなさいましたか?』
『おう、繋がったか。少し仕事を頼まれて欲しいのだが大丈夫だろうか』
『はい、大丈夫ですよ。ちょうど魔王様に仰せつかっていた仕事も一段落つきましたので』
ん、俺、なんか仕事出してたっけ? 不味い、完全にイベントのことで頭が一杯で忘れてたぞ? 何頼んでたっけ?? ……ま、まあいいか、取り敢えずまた仕事を頼んでおけば報告も後回しにできるだろう。
『おう、助かったぞ。では、報告は帰ってから受けよう。で、仕事内容なのだが、一旦城に戻って欲しいのだ』
『魔王城、ですか?』
『そうだ、俺は少し用事ができてしばらく戻れそうにないから、その間、城のことを任せておきたいのだ。どうだ、頼まれてくれるか?』
他人のプレイヤーに城を任せるとは少し不用心な気もするが、メガネくんなら大丈夫だろう。俺にちゃんと仕えてくれているようだしな。まあ、何かあったらウチの従魔たちが処理してくれるだろう。
『よ、よろしいのですか? 私ごときが魔王城を任されるなど……!』
『勘違いするなよ? あくまで管理が主な仕事だ。防衛に関してはウチの従魔で十分だ。それに具体的な仕事の話をしていないだろう?』
『具体的な仕事、ですか?』
『あぁ、何もなければお前を城に呼び戻す必要もないだろう? お前には魔王城でダンジョンマスターとして働いて欲しいのだ』
『だ、ダンジョンマスター!?』
俺の言葉に対して酷く驚いているようだ。まあ、無理もないか。俺も適当に思いつきで喋っているだけだしな。ただ城を任せても暇だろうし、やることもないかな、と思ったので適当に仕事を与えようと思った結果がこれだ。
『あぁ、お前にはプレイヤーと従魔を育ててもらいたいのだ』
『プレイヤーと従魔を育てる!?』
『あぁそうだ。魔王城の管理をお前に任せるから好きなように改装、いや改造してもらってよい。その上でプレイヤーが程よく経験値を稼ぎ強くなれるようにして欲しいのだ。そして、そうやって生み出したプレイヤーを最終的には俺の従魔達が根こそぎ回収する、という三段だな』 『な、なるほどぉ……』
『お前にはそれにあたって、城の改造はもちろん、プレイヤーへの宣伝等も行ってもらう。偵察部隊の本領をここで見せてもらおう』
『わ、分かりました! 陛下のお役に立てますよう、身を粉にして働く所存であります!』
『よし、では頑張るのだ』
そう言って、俺は通信を切断した。
……あれ、なんか思ってたよりも大事になった気がするぞ? 最初は軽い仕事を与えようと思って、前考えて途中で頓挫した計画を任せようと思ったら途中から乗ってきてしまい、最終的には凄いことになってしまった。
ま、まあいいか。ん、でも俺の状況は何一つ良くなってないぞ? よし、じゃあ今からこの状況を打破するための行動を
ピロン
俺が重い腰を上げようとした時、腰をぶち抜くような通知音が俺の脳内に響いた。
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