第854話 天啓と天誅
「では、皆短い期間とてもお世話になった。これからも私は一応、フンコロガシのリーダーとしてあり続けるものの、皆、自由に活動してくれ、いずれ再び集結するその時まで、皆で糞を大きくしよ、う……?」
クランメンバーに少しの間自由に活動したいからクランを抜けさせてくれと頼んだら、自由にしてもいいけどどうかリーダーの座にはいて欲しい、と懇願された。
メンバーとの時間はとても楽しく有意義な時間であったことは間違い無いのだが、繋がりが多ければ多いほどそれは自分自身に重りとなって降りかかる。しかもその負荷は体ではなく、心にくるから問題だ。だからこそ、抜けようと思っていたのだが、こうもお願いされては断るにも断れなかった。
だから最後にいい感じの言葉で締めくくろうと思ったのだが、、、
どうしてこうなった? フンコロガシがクランとして大きくなろうぜ、って話をしたかったのだが、気づいたら糞の話になっていた。まあ、皆笑ってくれたのが何よりの救いだが、やはり俺は人の上に立つことはおろか、前に立つのも向いていないようだな。
まあ、上手く纏めるなんて最初から無理な話だったのだ。皆が笑ってくれただけでもよしとしよう。
そんな訳で俺は今、空を飛んでいる。いや、ハーゲンの上に乗っている、と言った方が正しいだろうか。
太陽と追いかけっこをして、ずっと黄昏時を遊泳している。ハーゲンが本気を出せば太陽くらい置いていけそうなんだが、そうなると俺も掴まるのに必死だからな。いい塩梅に調整してもらっているのだ。
このゲームでは一日が二十時間で周期している。その為現実世界よりも太陽の動きが気持ちだけ早い。時間といえば、時間加速機能があればなぁ、幾度となく考えるのだが、それはそれでゲームの価値、体験の価値が薄れてしまうんだろうな。
命を燃やしているからこそ、ここで得られる経験は本物の体験として俺にフィードバックされているのだ。それに、無作為に体感時間を引き伸ばされては命の価値すらも希釈されてしまいそうだ。
まあ、あったらあったらでフル活用して、俺の人生は二百年分だ! とかって豪語しそうなものだが。
「なぁ、これから何をしようか。ハーゲン」
それは俺の独り言であった。テレパシーを使用していないため、ハーゲンには聴こえるはずも無い、音のはずであった。
しかし、ハーゲンは急に速度を上昇させ、太陽に向かって全速前進を始めた。瞬く間に太陽に近づいたのだが、それでもハーゲンはスピードを緩めない。グングンと速度を上げ、太陽に迫っていく。
俺は咄嗟のことに驚きながらも、なんとかハーゲンにしがみついた。少し余裕を持てるようになって顔を上げた時、そこにあったのは巨大な太陽であった。
「っでっけー」
全てを呑み込まんばかりの巨大な太陽は、清らかであり、それでいて全てを無に帰す禍々しさすら感じられた。
視界全体が、何色とも形容できない、光に覆われていた。こんなにも美しいとは、神々しいとは思ってもみなかった。そりゃ、昔の人は太陽を崇め奉る訳だ。太陽神なんて存在も目の前の太陽を見ては納得せざるを得ない。
だが、そんなことを思うと同時に俺は、この世界は直射日光をいくら浴びても大丈夫なんだなー、なんて下らないことも考えてしまった。
そして、そんな訳なかった。
まず最初に起きた一つの変化は、
『ご、主人様! ちょっとふざけ過ぎたっす! 暑くて死にそうなんで俺っち帰るっすね!!』
ハーゲンが急にそう言って消えた。すると当然俺は落下を始める。次に、第二の異変が始まる。
「え、ちょっ、なんで!?」
俺もハーゲンが消えた瞬間はびっくりしたものの、さして慌てる必要も無い。俺には天駆があるからな、落ち着いて発動すれば元の場所に戻れるかは分からないが、安全に着陸することくらいは可能だ、と。
しかし、その天駆が発動しなかったのだ。どう頑張っても発動せず、その焦りから他の方法を模索することもできずに……
ッドーーン!
俺は不時着、いや、墜落した。そして、目を開けるとそこには、、、無が広がっていた。
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