第850話 俺の帰宅


「クハハハハ! この霊魂魔法は最強の技、最強の秘術なんですよぉ! しかもこれほどの魂があるんだ、いかに貴方と言っても止められまい! せっせと魂を作ってくださりありがとうございますぅー!」


 目の前にいる何かがピーピー五月蝿いのだが何を言っているのかさっぱり分からない。


 それに俺は激昂しているはずなのに、どこか落ち着いていて、まるで海の底まで沈んでいるみたいだ。激昂している自分をどこからが客観的に見つめている自分がいる。


 そうか、もしかしたら今の俺は分割思考の俺なのかも知れない。それすらも分からなくなるって相当ヤバいな、俺。


「キャハハハハ! 私に恐れ慄きましたか! いかに最強プレイヤーといえど私の前では非力無力! これが私の最終形、た、い、、です!」


 目の前の何かが化け物に変わった。大方、周囲の魂を取り込んだとかそこら辺なのだろうな。もしそうであるならば、対処は簡単なのだが、それよりもまず俺の怒りをどうにかしたほうが良い。


 俺が敵を処理するのは簡単なことだが、そうしてしまうとこの怒りがどこにも発散されないままイベントが終わってしまう。そうなれば行き場のない怒りはまずい結果をもたらしてしまう可能性がある。だから、俺自身にどうにかしてもらわなければならない。


 改めて敵の全貌を確認する。体が変色、膨張しもはや人間のそれではない。手足も無数に生えており、顔は一つであるものの、その顔には無数の目がこちらを覗いている。口も大きく裂け、ただただ薄気味悪い。


 だが、タフそうな見た目であることはこちらとしても嬉しい条件だ。早々に敵が倒れてしまうとそれはそれで燃焼不足になりかねない。酸素が十分に供給されない炎は毒を生み出してしまうからな。ちゃんと燃料を補給してくれよ?


「【怒髪衝天】、、、【憤怒】」


スキルを発動したタイミングで俺は体の制御を手放して俺の本能に全てを委ねる。本来の怒りとスキルのおかげでかなりの破壊衝動に襲われていることだろう。そして目の前には破壊しがいのありそうな化け物、舞台は整った。


 憤怒を最後まで使うか迷っていたのだが、これだけ怒っていれば使ったほうが良いと判断したのだ。スキルによる恩恵が大きければ大きいほど終了時の落差が大きくなるってことだからな。その落差で我に返ってきてもらうことを想定している。


 怒り状態の俺は凄まじかった。本能で動いているからか、無理な力みなど一切なく、最高のパフォーマンスすら発揮して殴り続けていた。スポーツなどで怒りの感情は不要と言われるが、我を忘れるくらいの怒りならば逆にありだということだろうか。


 ゾーンを超えた集中状態、とでもいえばいいのだろうか。もはや集中しているいないではなく、本能による攻撃、もはや原始的とすら形容できる様だ。いや、ただの猛獣だろうか。


 だが敵は思ったよりも持ち堪えているようだった。


「クククククッ! 流石は最強プレイヤー、だが、私には効きませんよ? 魂とは肉体を超えた存在、いくら肉体が壊れようとも魂がある限り肉体は不滅なのです! それに、あなたは魂に対する攻撃手段を持っていない! それが貴方の敗因です!」


 んー、まだ俺は怒り狂ってるな。今の話を聞いてくれたら意識が戻った後でも自力で行けるかな、と思ったんだが。これはアフターサポートも必要みたいだな。


「さぁ、いい加減諦めたらどうです? そんな無意味な攻撃を続けていないで!」


 実はさっきから、というか俺が体の制御を手放した時点で、俺はずっと敵を殴ってしかいなかった。最高効率で最高威力の拳を何発も、だ。


 並の人間ならば五万回は死んでいるであろうその攻撃にこうして今もなお、立ち続けていられる、というのは流石と言ったところだろうか。


 ん? もう少ししたら俺が我に返りそうだな。最後にヒントだけ残して俺も帰るとするか。


「死骸魔術」


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