第849話 死者の松明


 飛んできた矢に対して咄嗟に目の前の頭を盾にして防ぐことができた。盾にされた側も矢を防がれた側も突然のことにびっくりしたことだろう。


 だが、盾にした側であり、矢を防いだ側の俺は次の行動にすぐさま移ることができた。第一射を防いでくれたプレイヤーの亡骸を引き続き盾として利用し、弓使いの元に急接近したのだ。弓使いの方はまだ呆然として弓を構えられる状況ではなかったため、結果としてはこの盾は要らなかったが。


 もしかして自分が同士を殺してしまった、とか思っているのだろうか?


 それは甘いと言わざるを得ないな。だって、死んだ側はそんな後悔よりも勝利を望んでいるのだろうから。


 だからこそ俺も負けられない、死んだメンバーの分まで必ず勝利を掴み取るという覚悟が俺にはあるのだ。その差がこの行動の差と言ってもいいだろう。


 スパンッ、とまだ焦点の定まっていない弓使いの首を刎ねて俺は地面に足をつけた。


「ふぅ」


 今の所、問題なく全員処理できてはいるものの、さすがは決勝ともいうべきか質の高いプレイヤーの数が多いように思える。そして、彼らが連携することで俺も油断ならない敵として立ちはだかってくる。まあ、まだ余裕があることには変わりないが。


 だが、次の部屋は本当に油断できなさそうな雰囲気が漂っている。おそらくそこにコアも鎮座しているのだろうが、それを守っているのはどれほどの敵なのだろうか。少し楽しみにすらしている自分がいる。意を決して扉を開けるとそこには一人の男がいた。


「クックック、ようこそいらっしゃいました、ライトさん。ようやく、私の前に現れてくださいましたね。私は、私はどれだけこの時を待ち望んでいたことか! おっと、失礼。私は魔法使いのウィズ、気安くウィズとお呼びください」


 そこにはフードを被った、いかにもな魔法使いがいた。いや、魔法使いというよりも、どちらかというと何かの物語に出てきそうな邪教徒、みたいな印象だな。


 それにしても俺を待っていた、とはどういうことだろうか。俺、コイツに会った覚えはないんだが。


 それに、名前まで安直だな。そもそも魔法使いを英語でウィザードだから、それで略してウィズなんだろうが、にしても英語圏の人からしたら魔法使いの魔法使い、ってことになってないか? それでこの人は大丈夫なのだろうか、笑われはしないだろうか。


「クックック、そんなに怯えた顔をなさらないでください。別に取って食おうと言う訳ではないのですから、えぇ。多少、痛い目は見てもらうかも知れませんがねぇ」


 いや、怯えてるんじゃなくて、心配、あるいは呆れているんだが。にしても前置きが長いな。校長先生とかだったら絶対に嫌われているタイプだぞ?


「いいでしょう、では私のとっておきを見せてあげましょう。【霊魂魔法】、デッドトーチ!」


 男は大きな声を発し、右手を天に掲げた。大きくガッツポーズをしているように見えなくもないが、その頂上は怪しい光が灯されている。一体、何をしていると言うのだろう。デッドは死を意味するだろう? トーチは……なんだっけ?


 どこかで聞いたことありそうな英語に俺が頭を悩ませていると、何やら、ものすごく大量の何かが突如こちらに向かってきた。それらは瞬く間に俺たちのいる場所まで到達し、遂には掲げられている怪光の元に集まってきた。


 だが、それらは肉眼では見えなかった。だが、俺の全感覚が神経が、告げていた。そこには何かがある、と。


「クククク、良い顔をしていますね。この存在がわかるだけでも大したものですよ。普通のプレイヤーには見ることはおろか感じることすらできませんからね。しかし貴方は見えているかのように感じている、流石ですよ。せっかくですから冥土の土産にこれの正体を教えてあげましょう、これは魂、今まで貴方が倒してきたプレイヤーたちの魂ですよ」


「……っ!?」


 流石にこれは驚きを禁じえなかった。まさか、倒された味方の魂を使って戦おうとしているなんてな。死者への冒涜も甚だしいぞ。ん、てことは……


「はっ、おい、まさか!」


「おや、気づいてしまわれたみたいですね。そうです、この魂の中にはもちろん、私たちが手にかけた貴方のメンバーの魂も含まれていますよ?」


 ブチ、俺は自分の中で何かが切れる音が明確に聞こえた。

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