第848話 忍スナ


 コソコソ隠れて遠距離攻撃を仕掛けてくる奴なんて一度見つけてしまえば、もう近接職に見つかったスナイパーくらい対処は簡単だろう。


 ん、これは決してスナイパーの方々を馬鹿にしている訳ではないぞ? なんなら銃の中では一番ライフルが好きと言っても良いくらい、スナイパーは好きだ。あー、でもシンプルにハンドガンも好きだなー。


 まあ、スナイパーの遠い所から相手に気づかれていない状態からの必殺の一撃はカッコ良すぎるから、やっぱスナイパーだな。一発で仕留めればなんの心配も要らないだろ理論、超カッコいいよな。


 ってことで、さっきから隠れているのに全然一発で仕留められなかった方にはご退場願おう。今も必死に姿を晦ませようとしているが、一度見つけて仕舞えば捕捉するのはとても容易い。


 俺が光速で近づくと敵はクナイや手裏剣のようなものを投げつけてきた。……忍のつもりなのだろうか?


 確かに忍はカッコいい。それこそスナイパーと並ぶくらいにはな。様々な技を駆使して相手を撹乱し、確実に任務達成をする。決して表に出てこない存在で、影の立役者感が半端ないだろう。


 でも、目の前にいるのは忍ではない。忍んでなければ任務達成もしていないはずだ。ならば倒すしかない。


 相手も意を決しているのか、もう隠れようとしていない。その手には俺の得物と同じくらいの短剣が握られている。


 ふむ、剣戟か、悪くはないな。ここに来るまではほぼ素手で戦ってきたし、ここに来てからも心臓を刺すことにしか役立っていないから、剣で戦うのも面白そうだ。


 俺が剣を構えると相手は一瞬で俺との距離を詰めてきた。そこまで戦いたかったのなら俺が構える前に攻撃してくれば良かったのにな。なんか全体的に中途半端だ。スナイパーっぽいことをしたり、忍っぽいことをしたり、今のもそうだが何処か甘い気がするのだ。


 それこそ本気で俺を殺したがっているようには思えない程に。


 最初は、俺を攻撃することよりも隠れることを優先しているだけかと思っていたのだが、もしかしてこの人はプレイヤー同士で戦うことに慣れていないのではないだろうか。


 確かにこのゲームではPvPを行わなくても普通に楽しんでいける。いや、むしろ普通に楽しんでいる限りPvPを行う機会の方少ないのかもしれない。


 そんなプレイヤーさんが自分の所属しているクランの所為で決勝の舞台という場所まで連れてこられたらそりゃ満足のいくプレイができないのだろう。


 そんなことを考えながら剣戟に臨んでいたからだろうか。俺は背後から射抜くような鋭い殺気が送られていることに気が付けなかった。


 いや、気付くのに遅れた、というべきだろうか。


 ビュン、という音が聞こえてきた時にはもう弓から矢が放たれていて、物凄いスピードで迫ってきていた。しかも、それは俺の頭を丁度貫く角度で。


 不味い、避けなければ、そう思ったものの、俺は今絶賛剣戟中だ。手が離せない。というか、相手が俺に矢が当たるようにポジションを取ってきてうまく逃げ場がない。


 もう少し早く気づいていればなんとでもなったのだろうが、如何せん時間が無い。恐らく、目の前の敵はこの弓が本命だったのだろうな。だからいい具合に手を抜いて俺と戦っていたのだろう。


 今のポジション取りを見ればPvPに慣れていないわけないってことが手にとるように分かる。これはやってる側の動きだ。


 ん、なんかそう考えるとイラついてきたな。だって、不慣れなんだろうなーて思いながら戦ってたのに蓋を開けてみれば演技だったとか、許せん。


 そうだ、良い方法があるじゃないか。矢を防げて敵も仕留めることができる最善の一手が。問題は間に合うかどうかだが……


 グサッ


 矢が頭を完全に貫いてしまった。忍スナイパーさんの頭に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る