第846話 初めて使っちゃいました


 両腕に夥しい量の返り血を浴びている俺は、まるで修羅の如く戦場を闊歩していた、と言うわけではなかった。


 というか、ゲーム内で返り血なんて付着しない。設定次第ではエフェクトが変わることはあっても、血がこびりついて離れない、なんて状況にはなり得ないのだ。


 閑話休題


 俺は二人の門番を倒したことで漸く砦内に歩を進めることができるようになった。門番相手に苦戦したわけでは無いが、両者共にそこそこの実力者ではあったのもまた事実だ。


 門番であの実力ってことは、砦の中にはどんなに強い奴らが待ち受けているのだろうか。


 そんな考えは入って数秒で霧散することになった。


 敵が全くといって良いほど強く無いのだ。強くないどころではない、むしろ弱いとも言える。少年サッカーのようにこちらに塊で飛び込んでくるのだが、剣で軽く薙ぎ払うだけで飛んでいってしまう。まるでテニスでもしているかのような気分だ。


 サッカーとテニスを同時に楽しめている、といえば聞こえはいいかもしれないが、それでも戦いと言う観点においては全く楽しくない。


 だが、この集団に紛れてしれっと俺の命を獲ろうとしているプレイヤーがいる。まだ姿を視認できてはいないものの、アスカトルのように隠密行動が得意なのだろう。時折、鋭い剣戟や針の穴を通すような投擲攻撃が繰り出されている。


 俺は気づいていないふりをしながら上手く避けて敵の所在を探っていた。しかし、敵は俺にダメージを与えることよりも、見つからないことを優先しているようでなかなか見つけられない。


 そして、とうとう探すことに専念もできなくなった。


「ふむ、アッパー殿もドラケ殿もやられてしまったか。流石は最強プレイヤー、といったところか。私とてどれだけ舞えるかは分からぬがここを通す訳にはいかない、全力で守らせてもらうっ!」


 どこからか武士っぽい人が現れた。それも日本の武士というよりもどちらかというと韓国や中国といった古代大陸の兵士、といった感じだ。


 得物も両手剣を装備しているのだが、俺の装備している脇差よりも少し長く、かといって以前装備していた長剣よりかは少し短いという、なんとも中途半端感を否めない武器だった。


 しかし、彼から放たれるオーラは先程の門番よりもさらに強く、一筋縄ではいかなさそうな相手だった。しかも、先ほどからコソコソとダメージを狙っている敵に加えさらに、武人の人の後ろには弓を持ったプレイヤーまでいるのだ。


「す、助太刀します、シャークさん!」


「おう、任せたぞ」


 なんていかにも主人公っぽい会話までしちゃって、これは是が非でも退治しなければいけないようだ。


 実質、三対一なんて卑怯なことしておいて主人公面とは太々しいにもほどがあるが、まあ、誰しも自分だけが自分の人生の主人公なのだから仕方ないな。


 ってことは俺も主人公面してもいいってことだよな? 俺の場合はダークヒーロー気取らせてもらうが、俺の人生だ、文句は言わないで欲しい、


「【麻痺の魔眼】」


 魔眼を使って敵の行動を一瞬だけ阻害する。そして一瞬の時間があれば、


 ザクッ


 敵の心臓を突くことくらい余裕でできちゃうのだ。

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