第844話 王の散歩
骸を生み出していた元凶のプレイヤーを殺すと、それと同時に俺たちを苦しめていた骸も消えた。
一息つこうと周りを見渡した時、そこに広がっていたのは息を詰まらせる光景だった。
「す、少ない……」
そう、人が全然いなくなっていたのだった。ウィンドウを確認しても残っているのは五十人中なんと十二人。それに対して相手は四十九人も残っていた。
これがクラン抗争、これが決勝、ということか。相手もなりふり構わず本気で俺たちを倒しにきている。
だが、こっちだってタダで負けてやるわけにはいかない。もう、三十八人も死んでいるのだ、勝利以外に彼らを成仏させる手段はない、絶対に勝たなければならい。
「【分け身】、【触手】」
俺は分身をとにかく無茶苦茶生成した。そして、それらを砦に配置した後にオリジナルの体から触手を二十本同時に生やした。
「お前ら、死ぬ気で砦を守れ。俺はちょっと行ってくる」
背中から生やしまくった触手が一列に並んでマントみたいだな、なんて思う間もなく、光速で歩くように敵の砦まで辿り着いた。もう俺は壁にぶつかっていた頃の俺じゃない、些細な障害物なんて障害たり得ない。
敵が襲って来たところで俺の歩みは止められない。鋭利な触手が敵の胴体を貫き、ネバネバした触手が敵を絡めとる。鋼鉄の触手が撲殺して、血を吸う触手が敵をミイラへと変えてしまう。
砦の内部は既に阿鼻叫喚の地獄絵図だが、それでも俺の歩みは止まらない。
どんな武器も、どんな盾も、どんな肉壁も絡め貫き叩き枯らす。
おいおい、俺の仲間達はこんな奴らに良いようにやられたってことかよ。全く、もっと俺が鍛えてあげておけば良かったな。
スパン
そうだった、俺の触手は斬ることもできるんだったな。薄く細く伸ばされた触手は容易にプレイヤーの首を切り落としてしまった。それでも止まらない、歩みを止められない。ゆっくりと、しかし着実に目標へと近づいている。
「おいおい、これじゃあまるで魔王だぜ……」
声が聞こえたから前方を見やるとそこには二人の人影があった。さして気に留めることなく、今までと同じように触手で倒そうとしたところ、、、
ブチャ、ザシュッ
片方は拳で触手を粉砕され、片方は大きな剣で両断されてしまった。ふーん、少しはやる奴がいるみたいだな。それもそうか、ここは決勝なのだからな。なら、俺もそれ相応の戦いを見せないとだな。
「オラァあああ!! 死ねぇええええ!!!」
何故だろう、今はやけに世界がスローに感じられる、スキルを使っているわけでもないのに。まるで、湖の底にでも沈んでしまったかのような感覚だ。
相手の大振りなパンチをヒラリと半身で躱しそのまま、その回転を生かして振り向きざまに相手の首筋に手刀を決めた。別に格好つけようとしたわけじゃない、気づいたらこうしていたのだ。
ただ、手から伝わってきた感触はゴギャっと何かが潰れたような感覚で、俺に飛びかかってきたプレイヤーの意識を刈り取ってしまった。
その瞬間、俺は目が覚めた。湖底から浮上した。
「……」
今、、、俺、アニメでよく見る手刀をしたのか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます