第841話 存在証明戦争


 俺はその後もクランのメンバーと協力しながら無事にクラン抗争を勝ち進んでいくことができた。基本的には皆と行動して目立たないように行動したつもりだ。……今更だとかそういう指摘は残念ながら受け付けていない。


 今日も今日とて敵の殲滅に向かおう、そう思って魔王城地下一階で待機していると、ふとメンバーの一人から声を掛けられた。


「リーダー、次はこのイベントの最終戦、つまりは決勝戦です。僕たちはリーダーがいなければ決勝戦はおろかこのリーグにすら辿り着くことはできなかったでしょう。僕たちをここまで導いてくださり、本当にありがとうございます」


 そう言って深々と頭を下げられた。もともと決まっていたことなのか、この場の即興なのか分からないが、他のメンバーたちもそれに合わせて俺に頭頂部を見せつけてきた。ってか、次がラストなのか? 今初めて知ったんだが。


 そして、俺はこの状況に対してどのように対応すればいいのか分からなかった。


 だって、嫌われてる、まではいかないにしろ、確実に面白くないって思われてると思ってたんだぞ? そんな相手からきちんとした感謝の言葉を受けるなんて思いもしなかったのだ。


 もしかしたら俺を気持ちよく追い出す為の手段かもしれないが、俺は素直に慕ってくれている感情が伝わってきた。もしかせずとも、俺の被害妄想だった、というわけだ。


 だが、そんな誤解は抜きにしても今この場でどんな対応をすればいいのかが分からない。碌に社会経験もないただの若造が人の上に立つ者としての所作が分かるはずもない。


 魔王は……アレはただのノリだ。


「お、おう。いや、こちらこそ礼を言わなければならないだろう。なんせ、俺一人ではこの戦いに勝つことはできなかった。皆がいてこそのこのクラン抗争だ、本当にありがとう」


 俺も素直な本音で感謝の意を伝えた。なんせ、俺一人ではイベントに参加する資格がないのだからな。


 それでも皆は俺の気持ちを受け取ってくれたようで、嫌な顔はしていなかった。


 よし、では想定外であるものの、いい具合にクランの士気も高まったことだし、俺もリーダーとして最後の務めを果たすとしよう。……それが何なのかは聞かないで欲しい、適当にするのだから。


「ここまで皆、本当にお疲れ様でした。ここまで来れたのも単に皆の力あってこそである。だからこそ、最後まで気を抜かずに戦い抜いて欲しい。我らがこの世界に存在するということを示す、証明戦だと思ってくれていい。全力で勝ちに行くぞ!」


「「「「「「おおーーー!!」」」」」」


 その咆哮と共に視界がなんとも言えぬ高揚感と共にホワイトアウトした。


 これが仲間なのかー、案外悪くないな。なんて柄でもないことをしみじみ思ってはクランを抜けるかどうか一瞬迷いった。そして、それと同時に最後までリーダーとしての口調は定まらなかったなーなんてどうでもいいことを考えては、まあいいかと目先の戦いに意識を向けた。


 そして目を開けたその視線の先にはいつもと同じようにウィンドウがあったのだが、その名前からは何かただならぬ物を感じたような気がした。


 すぐに気のせいだと思い、メンバーに防衛の指示を飛ばし、俺自身も俺にしかできない準備を始めた。


 しかし、なんだか嫌な予感がする、そんな不吉なことを思わずにはいられなかったのだ。


『〔フンコロガシ〕vs〔ボトムアッパーズ〕』


 チラリと名前を再確認した俺は、何もなければいいが、なんて如何にもフラグ臭の酷いセリフを頭に浮かべてしまった。


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