第839話 ドラゴン卒業


 うん、人間ってそんなに美味しくないな。


 俺は人間を、いやプレイヤーを咀嚼しながらそんなことを考えていた。やっぱりそうなってくると牛とか豚とか美味しい肉って凄いよな。まあ、美味しいという特徴を活かして全世界に普及しているのだから、生物学的戦略としては大成功って訳だな。


 そんな益もないことを考えながらも俺は常に手と口を動かし続けていた。右手で砦にダメージを与え、左手でプレイヤーを捕まえて食べる。それを繰り返していると、敵さんもようやく状況が理解できたのか反撃が開始された。


 足元でチクチクとした攻撃を感じるが今の所脅威にはならなさそうだ。


 そういえば、確かクランの名前は海底摸月、カイテイ……なんていうんだろうか。バクツキ、バクゲツ? そもそもバクと読むかどうかすら怪しいな。でも名は体を表すって言うから、どういう意味だか気になるな。もしかしたらクランの特徴がわかるかもしれないしな。


 あ、でも推測することはできるか。海底の意味はそのまま海の底ってことだろう? そして摸はなんだろうか。手偏があるから手に関することだろうが、、掴むとかそういう意味なのかな? 月は月だから、海底で月を掴むってことか。


「……」


 どうぞ掴んで下さい、って感じだよなー。仮にもし俺が掴みたくなったら俺は空中で掴むだろうし。


 んー、分からんな。よくよく考えれば海底の意味すら良く分からんし。海底に何かあるのか? 後で海馬に話聞いてみようかな?


 そんなことを考えている間にも俺はつまみでも食べるかのように人間を食べていた。人間って味は良くないけど、コリコリしててこう言う食感が好きな人にはオススメだな。焼き鳥でいう砂肝が好きな人とかだな。


 俺はまあモモとかネギマとか——最悪タレだったらなんでもいいが——がいいからそこまで好き好んで、わけでもないな。


「んあ?」


 気づくと左手は何も口には運んでいなかった。どうやら無意識で獲れる人間たちは粗方取り尽くしてしまったようだ。となると、残りは隠れているか逃げているかのどちらかということになる。いや、もう一つあるか、こちら側に攻めている、という可能性が。


 まあ、砦には四十九人を残してきているから流石に大丈夫だとは思うが一応の為、可及的速やかに敵の排除を実行しなければならない。


 炎のブレスとか吐けたら楽なんだろうが、残念ながら炎魔法どころか火の魔法すら持ったことがない。それに、火魔法を持っていたところで口から吐けるのか、というのはまた別問題だろうし。


 ん、口から魔法を吐く?


 俺は一つだけ魔法を持っている、それを口から吐いてみる、吐けるかどうかはやってみればわかるだろう。


 俺は大きく口を開けて頭の中で一つの単語を思い浮かべた。


 【爆虐魔法】


 そしてさらにもう一つの単語を思い浮かべてみる。


 ロケットボム。


 すると、口から、まるで炎のブレスでも吐くかのようにロケット弾が、つまるところのミサイルが発射された。無差別に無軌道に乱射されたミサイルは砦を地面を、そしてプレイヤーをことごとごとく爆散させてしまった。


 んー、これってもはやドラゴンなのだろうか?


 やりすぎてしまった感が否めない惨状を前に俺はそう思わずにはいられなかった。

 

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