第838話 死ぬ意味と生きる意味


 俺が死んでからというもの、その試合はあっけなく終了した。炎を使う敵と炎に耐性のある味方では最初から勝負になり得なかったのだ。


 そしてそれを蚊帳の外から見守るクランのリーダー。


「……」


 俺、完全に要らねぇな。少なくともこの試合においては。


 なんかPSが大事だと思ってスキルと称号を封印していたがそうじゃなかったな。だって、勝てなきゃ、生きてなきゃ意味ないもんな。


 俺は死ぬことで生を実感しているんだ。生きたいときに生きてなかったら死ぬ意味も無くなってしまう。


 だからこそ俺は望む時に死に、望む時に生きる、そんな死神の様な生き方がいいのだ。


 まあ、合理的に、一般的に、普通に考えたら封印しまくって死にまくってその間に技能を高めるのが良いのだろう。そんなことくらい分かってる。


 でも、その道中が俺にとって楽しいもんじゃなかったら俺はする意味が無いのだ、生きている意味が無いのだ。それだと俺がこのゲームをしている理由がブレちまう、なんでプレイしているのかが曖昧になっちまう。


 俺はあくまで死ぬまで好きなように生きるのだ。嫌いなことするくらいなら、死んでやる。その代わり、嫌いなことをしない為には全力で頑張るからな。


 俺は頭の中で誰に向かってでもない言い訳めいたものを延々と展開していると、突如、白い光に包まれた。


 最初はビクッとしたが、すぐに理解した。あぁ、早速チャンスをくれたのか、と。


『〔フンコロガシ〕vs〔海底摸月〕』


 目の前に開かれたウィンドウは俺に開放しちゃえよって囁きかけている。えー、やっちゃいます?


 でも、まあさっき何もできなかったしなー。先程の償い、というか八つ当たり? なんか無茶苦茶破壊衝動というか、何かを無性に解放したい気持ちに駆られてる。


 よし、じゃあやっちゃいますか。


「先程の試合は本当に申し訳ありませんでした。今回は私一人で行くので皆さんはこのクランを全力で守ってくださいね? では、」


 そう言って俺は皆を置いて砦を後にした。俺は敢えて俺が死んだ時のことを話さなかった。


 だって、今の俺は絶対に死なないからな。万が一、いや兆が一にも死に得ない。……兆は流石に言い過ぎだろうか?


 まあ、どちらにせよ結果は同じだ。ならば少しくらい誇張したところで誰も文句は言わないだろう。


 さあて、どんなスキルでやろうかな〜。少し迷うが、今日はアレで行こう。少し派手に行きたい気分なのだ。


 俺は敵砦まで一気に駆け抜けると、俺に気づくことなく、皆で慌ただしく防衛を固めている敵プレイヤーが見受けられた。流石にこんなに早く敵が単騎で乗り込んでくるとは思っていないだろうな。


 でも、きちゃったもんは仕方がない、と言うわけで。


「【龍宿】」


 俺は手足と翼が生えた、西洋のザ・ドラゴン、みたいな姿に変身した。いきなり自分たちの砦の前にドラゴンが現れたらどう思うんだろうな。


 俺はそんなどうでもいいことを考えながらまずは手始めに一番近くにいたプレイヤーを、食べた。

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