第837話 敵の炎


「〔フンコロガシ〕vs〔炎剣の帝国〕」


 俺は戦闘フィールドに転移させられた。目を開けるとそこにはいつもの様に敵のクラン名が表示されているのだが、いつもと違って今回の敵は一つだけだ。しかも強そうな名前。


 炎の剣って強そうだな〜なんて漠然とした事を考えながら同時に、ラッキー、とも思っていた。何故ならうちのメンバーは丁度マグマの中で水球を楽しんでいたのだからな。


 いやーこんな偶然あるんだな。


 相手の炎の攻撃に対してこちらはかなり強く出られる事だろう。というか、一番気をつけなければいけないのは俺だ。なんせ俺は今のこの瞬間はどのメンバーよりも弱いのだからな。


 メンバーたちには気取られない様にいつも通り振る舞っているが、ヒョンなことで死んでしまうかもしれない。もしそうなってしまってはダサいし恥ずかしい。


 今回の目標はまずは一キル、一キルを頑張りたいと思う。高望みをしてもできなかったら嫌だし、確実にクリアできるスモールゴールを設定してそれを超えていく。それが成長への近道、のはず。


 そんなことを思いながらメンバーを見渡すと、この状況にも幾分は慣れたのか、程よい緊張感と同時に挑戦的な炎をその目に宿していた。皆、やる気は十分ということだろう。俺も足を引っ張るわけにはいかないな。よし、指示を出そう。


「相手は俺たちにとって相性の良い敵だ。だからこそ早めに強襲を仕掛けて一気に蹴りをつけたい。だから、速攻で砦の防御をある程度固めてから、攻め込むぞ!」


 おう! と聞こえたような気がしなくもないが、掛け声なんてなくても俺らは一つだ。そこからの作業は目を見張るスピードだった。


 あっという間に防御壁を組み上げ、そのまま堀を作り水を流して挙げ句の果てには砦の上部に狙撃台の様なものまで作って外敵に備えているようだ。砦には十名のメンバーが残って防衛し、残りの四十名で攻め込むことが決定した。


 十人だけ残すなら全員で行ってもいいんじゃないか、という意見もあったが、敵が単騎もしくは少人数で攻めて来ないとも限らない。それなら、それに対応できる人数分だけ残そう、ということになったのだ。


「よし、じゃあいくぞ!」


 俺が再び、掛け声を発したが今度は確実に返事は返ってきていなかった。きっと、みんなシャイなんだろうな。うん、分かるぞ、俺は分かっている。


 そんな不安極まりない形で俺たちの軍は出発した。目指すは炎剣の帝国の全滅だ。


 進軍を続けていると、同じように正面から敵が見えてきた。


 正面衝突ってわけですかい。互いに一列に並んでいるこの様はまるで戦国時代だな。


 そんなことを考えていたからだろうか、敵の第一声に上手く反応できなかった。


「全軍、発射!」


「え?」


 向かい合っている敵の軍勢から放たれたのは、火の矢だった。いや、ちらほらただの火球も混じってるな。


 おいおい、なんで炎のとか名乗ってるクランが遠距離攻撃なんてしてくるんだ? 名前詐欺すぎるだろ! 周りを見ると、メンバーの皆は見慣れた、とでもいうかのように平然とその攻撃を受けて立っていた。


 それに対して俺は……



 死んでしまった。


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