第835話 転がり続ける


 俺は懐かしい感覚に襲われながら魔王城で目を覚ました。そういえばリスポーン地点ってどういう仕組みで決まるんだろうな。最後ログインした場所、とかなのかな?


 ま、そんなことは置いといてだな、せっかくこの無垢な体を手に入れたんだ、早速死にまくらないとな。さっきは思いがけず無様な形で死んでしまったが、次はしっかり死ぬぞ。


 だが、実際に死ぬとなるとどうやって死ぬか迷うな。選択肢が多ければ多いほど優柔不断である俺は迷ってしまう。迷った人間というのは得てして楽な方向に進みたくなるものであって……


 ドスン


 俺は先程の無様な死に方を繰り返していた。


 全く、こんなつもりではなかったというのに。これならば先にどう死ぬか決めてから無効化スキルを封印するんだったぜ。まあ、死ぬことさえできれば文句はない。それに、この転がりながら死を待つ時間というのも、慣れれば案外悪くは


「ぶべっ」


 前言撤回、決して気持ちの良いものでも悪くないものでもなかった。


 にしてもたかがだか数メートル転がって木にぶつかっただけで死ぬなんて、俺は本当にか弱いプレイヤーに戻ってしまったんだな。それはステータスを見てもLUK以外の全ての数値が教えてくれている。


 俺は強くなっていたようで、実の所スキルと称号によってのみその力を得ていた、と考えると少し脆いと思わざるを得ないな。それこそ封印ではないにしてもスキルや称号を封じてくる敵もいずれ現れるかもしれない。


 それに、スキルと称号に頼っている、ということは地力がついていない、ということにもなる。それはレベルやステータス的な意味だけに留まらず実践経験においても言えることだ。


 俺に実践経験がないとは思わないが、それもスキルと称号に頼った上での話だ。何を持って地力、とするかは知らないが、ギリギリの戦い、なんてものを俺は久しく感じていない気がする。


 最悪、厭離穢土があるし、とか龍宿使えば、とかそう言った考えがある中で戦ったとしても果たして本当に強くなっていると言えるのだろうか?


 いや、俺はそうは思わない。別に強ければ良いじゃないかという考えもわかるのだが、現に帰らずの塔でキングミノタウロスとやり合った時に、俺はPS、プレイヤースキルの必要性を感じているはずだ。それにも拘らずこうしてまたスキルと称号に頼っているのは甘えている証拠なんだろうな。


 よし、というわけで次のクラン抗争、決勝リーグにはスキルと称号を封印して臨むことにしよ


「ぶふぉっ」


 あ、死んだ。転がっている間は思いの外考え事をするには向いているのだが、強制的に終了を告げられるのは気に食わない。ま、この死に方を選んでいるのは俺だから文句をいうのも筋違いというものだが。


 にしてもこのまま死に続けていたらどうなるのだろうか。と同じようにスキルと称号を獲得できるのだろうか、仮にできたとして、封印を解除した後は一体どうなるのだろうな。


 そんなことを考えながら俺は火山の火口にダッシュで戻り、前転するように転がり始めた。そして、小石に脇腹を小突かれたり、草木に皮膚を切り裂かれたりしながら俺に一つの考えが降ってきた。


 全く同じ死に方をしなければ同じ結末はない、と。


 そして、それと同時に俺は全く同じ死に方をしても、全く同じスキルと称号は手に入らないのではないか、そういう予感におそわれていた。


 全く同じ人生など、ありはしないのだか


「ぶぎゃっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る