第833話 忠実なる僕


ーー時は少し遡って、主人公が火山を飛び出した時のこと



 うーっし、とりあえずメンバーに訳も分からない水球をさせることができたな。これで一人の時間が確保できた。


 生涯孤独がいいかと聞かれればそれはちょっと、と思ってしまうのだが、それでも俺は一人の時間が好きだ。いや、もちろん友達といる時間も楽しいが、結局は人目を気にせずになんでも好きなことやるのが良いのだ。


 とにかく、そんな訳で急遽俺が生み出した一人時間で何をするかだが、さっき思いついた引き裂かれるというのが物理攻撃に入るのかどうか、それが気になる。


 仮に物理攻撃に入らないのだとしたらそれで死ねるってことだから美味しい。そして物理攻撃に認定されたとしても、単純に両側から引っ張ったらどうなるのか気になる。


 物理攻撃が無効になっているから、そもそも引っ張れない、ということになるのか? でも、日常生活で人を呼び止めたり、ズカズカ案内するときなど引っ張るだろう? つまりはかなり境界線が曖昧だと思われるのだ。


 仮に引っ張れるけど死ねない、みたいな状況になった時って俺はゴム人間のように手足が伸びるのだろうか?


 んーとりあえず考えても無駄だな。実際にやってみるとしよう。


「アシュラー!」


 こういう時にアシュラは非常に便利だよな。なんせ、体が大きいから一人で引っ張れるのだ! まあ、そんな機会そうそうあるもんじゃないが、それこそ超巨大なポテトチップスのふくろを開ける時くらいだろう。


『よし、じゃあアシュラ、俺を引っ張ってくれ!』


 俺がそういうと、アシュラはキョトン、という顔をした。従魔でも、元スケルトンでもこんな顔するんだな、って思ってしまった。


 でもまあ確かに自分のご主人様から、そのご主人様自身を殺せって言ってるようなもんだからな。それに、仮にそこまで思考が追いついていなかったとしても、単純に何故引っ張る必要があるのか、って思うよな、うん。


『ちょっとした実験をしたいんだ。俺の両腕と両足を持ってゆっくり引っ張ってみてくれないか?』


 そう言って俺は寝っ転がると、両手両足を伸ばした。そして不恰好になったご主人様をアシュラはクレーンゲームのように持ち上げて、勢いよく引っ張った。


「いててててっ!」


 俺が急に声を荒げたことにびっくりしたのか、アシュラがパッと手を離してしまった。両手両足を持たれて宙に浮いていた俺は当然落ちることになる。


 ドスん


「うはっ」


 アシュラに目をやるとものすごくオロオロしていた。なんか今日はとても人間臭いな。ってか、キョトンとしてた割には思いっきり引っ張りやがって、しっかり痛かったじゃないか。しかも途中で離したから実験結果も得られなかった。


『よし、もう一回やるぞ! 今度は俺が痛いって言っても離したらダメだからなっ!』


 そう言って俺は寝転がってバンザイの形をとった。そして、アシュラがコクリと頷き、俺を持ち上げて、引っ張り始めた。


「いたたたたたたた!!」


 さっきよりも強く引っ張られた俺はさっきよりも大きな声をあげてしまった。だが、アシュラはそれでも引っ張るのはやめてくれなかった。そして、



ーーースキル【痛覚耐性】を獲得しました。



「お前かーい! ってててて!」


 痛みが和らいだと思ったら予想していなかったスキルを手に入れた、しかし、その俺を見て、力が足りないと判断したのかアシュラはさらに力強く引っ張ってきやがった。

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