第831話 内気な少年


 僕は車以外、フンコロガシ唯一のリーダー公認ヒーラーだ。僕はついさっき、リーダーに直々にヒーラーを任命されたんだ。スキルとポーションまで用意してくれた上で、だ。


 ペアを作ってと言われた時はまた僕は一人か、と今まで何度も経験してきた状況になって、落ち込むことすらない虚無感に襲われてたんだけど、今日は、今日だけは自分のコミュ障を褒めてやりたい。


 だって、そのおかげで僕はリーダーの目に留まったのだから。そうでもなきゃ僕みたいな地味なプレイヤーがリーダーみたいな凄い人に意識されることもなかっただろう。


 そんなこんなで僕は今、審判をしている。


 ……え? 何で審判かって? そりゃ僕も謎だよ。でも、気づいたらこうなってしまってたんだ、仕方がないだろう。他のメンバーは水球ならぬ、マグマ球、いやマグマボールをしているからね、点数を数えたり回復の為にフィールドを駆け巡ったりしている。


 リーダーはどっか行っちゃったけど、このマグマボールが案外楽しい。マグマは水と違ってドロドロしているから、液体なんだけど水というより、泥に近い。まあ、ダメージの量は比べ物にならないんだけどね。


 泥って聞くと動きにくそうなイメージがあるけど、逆だ。すぐには沈まないから意外と動き回れるんだ。その分、強靭な足腰が求められる。恐らく結構な距離を移動しないといけないクラン抗争を対策してのことなんだろう。流石はリーダーだ。


 そしてボールすらも岩で出来てて一定の筋力が求められる。更には死んだらここまで走って戻ってこないといけないというかなりの鬼畜仕様。でも、これは確実に自分の為になるって分かってるから皆んなちゃんとやってる。


 僕はしなくてもいいのかな、って思ったけど、そんなことを考えてる暇はなかった。思ったよりもバンバンと点数が入るからその度に回復をしないといけないのだ。それにリーダーは恐らく僕に足腰や筋力じゃなくてヒーラーとしての熟練度を求めている。


 それは技量としてもそうだし、システム的なこともそうだと思う。だから懸命に皆の状況に目を光らせている。


 あと、試合を重ねるうちにルールが追加される、なんてこともあった。最初にできたのはオフサイドだった。ゴール前で待ち伏せして遠投する、ってのは確かに戦術としては強いけど、それはリーダーの求めていることじゃないだろう、ってことで最初の数回で禁止になった。


 もし破った場合は問答無用で退場してもらっている。


 他にも、プレイヤーへの直接攻撃の禁止や、セルフヒールの禁止などプレイヤーによって差が開かないように調整されていった。五点先取から十点先取に変更されるっていう小さな変化もあった。


 リーダーがいなくてもこれだけクランとして団結して行動できてさらに不平不満も出ないっていうのはやっぱりリーダーの凄さだと思う。


 だって文句を言うくらいなら出ていけばいいだけだけど、それでも誰一人として抜けてない時点でリーダーの力量が窺える。やらせてることは明らかにヤバいことなのにね。


 そうして何度も何度も試合を重ねた。リーダーが帰ってこないからとりあえず試合をしていた。次の日もその次の日もだ。クラン抗争の決勝リーグはとうとう明日に迫っていた。


 まだリーダーは帰ってこないのか、と徐々にみんなが焦りを感じ始めていた頃、メンバーに少しの異変が現れていた。


 皆んなは試合に集中しているのか、気づいていないんだけど明らかに死ぬまでの時間が長くなっているんだ。そしてその間にも点は決まっていくから僕の稼働が単純に増えた。


 僕としては熟練度が上がるから嬉しい悲鳴なんだけど、いいんだろうか? 死なないってことは足腰の強化が行われなくなるってことだ。


 それでも何人かは死んでいたけど、とうとう誰も死ななくなってしまった。これでは僕の熟練度も皆んなの足腰も強化されない、一体どうすればいいんだ?


 そう思った時だった。


 ッザッバーン!


 上から何か降ってきた、リーダーだった。

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