第825話 混沌に潜む
「いててて」
また壁にぶつかってしまった。しかも今度は敵の砦の内側の壁だ。このスキル、強いのは強いんだろうけどちょっとクセが強いというか、慣れるまで少し時間がかかりそうだな。
ま、俺がもうちょっと落ち着けばいいんだろうが。そのうち、猪突猛進、的なスキルとか称号をよこしてきたりしないだろうな? 確実に光速より遅いからいらないぞ? あぁん?
って、こんなことしてる場合ではない。急いで俺たちの砦に向かわなければ。
俺は一心不乱にフィールドを駆け抜け、一瞬で砦に到着した。でも実際は文字通り一瞬だったので、一心になることも乱れることも無かった。ただ、壁には激突しなかった。
そして、そこで俺がみた光景はなんとも悍ましいものだった。
いや、悍ましいというより、カオス、だった。
「おいおい、おめーらぁ! 社畜を舐めんじゃねーぞぉ? こちとら残業で余裕で五時間以上働いてんだよぉ! 五時間ぶっ続けで砦を襲うなんて余裕すぎるぜ! ひぃひゃっはー!」
この集団は一人のリーダーを中心にロボットのような精鋭たちがひたすらに遠距離攻撃を放っていた。きちんと隊列を組んでひたすらドカドカとまるで日頃の鬱憤を晴らすかのように攻撃する様はどこか哀愁が漂っていた。そしてその傍ら、別サイドでは、、、
「貴方たち、いくわよっ! 全軍突撃ぃいーーー!!」
「「「はい、お姉様っ!」」」
こちらも一人のリーダーを中心にしているところは変わらないのだが、全体的なクランの様子はまるで違う。こちらはまずリーダーがかなり特殊なのだ。
ガングロな肌に金髪で七三分け、白のタンクトップはその鍛えられた体の上でとても神々しく輝いていた。メイクもバッチリで右手には大きな杖を装備していた。
え、その見た目で魔法使い、とでもいうのか?
って、そもそも、違うクランが完全に協力しちゃってるじゃねーかよ! 前回の俺らの試合を見たのか? にしてもちょっとお互いのこと信用し過ぎじゃないのか?
……いや、そうでもしなければ勝てないということが分かってしまったのだろう。これは不味いな。よし、
「隠れるか。【隠遁】」
俺は完全に周囲に溶け込んだ。味方を助けないのか、と問われればそりゃ助けたかった、と思っている。ただ、少し今は分が悪い。違うクラン同士にあれだけ連携されてしまえば数の利で負けてしまう恐れがあるからな。
それならば、ウチのメンバーに全滅してもらって、その後の決着をつける段階で弱った敵を処理する、の方が現実的だと思ったのだ。
にしても、凄いなー。深夜組と秘密の花園だっけ? 俺には知らない世界がまだまだこんなにもあるんだな。それに、同じ人間でもこれほどまでに別世界を歩んでいる人がいるなんて……人間って奥深い。
いや、そりゃ人間は色んな人がいるということくらい知ってたぞ? ただ、知識として知っているのと体感するのではまた大きく話が変わってくるし、体感するのと実感するのでも大きく差が開くのだ。
ウチのメンバーが全員やられたのか、秘密の花園と深夜組が対峙した。
社畜vs花園、どちらが勝つのだろうか。ま、最後は俺がいただくんですけどね。
だが、本人たちは最後に漁夫られるなんて露知らず、仮初の最終決戦を始めてしまった。
開戦の合図は、、
「貴方たち、行くわよぉーーー!!」
やはり、この戦場でも一際輝いていた人だった。
……花園ってなんだ?
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