第824話 狂い咲き


「【武装演舞】」


 俺は魔法はモロに食らいながらもなんとか攻撃手段の確保に成功した。まさか、味方だったプレイヤーの武器を使われるとは夢にも思っていなかっただろう。俺もだ。


 だが、どれも武器はAA《エーシーズ》という格好良い名前に恥じぬ業物で、戦力としては申し分ない。相手も、単に武器を奪われたという異常の驚きを示しているように思える。


 今が、攻め時だな。


 俺は分割思考をフルで使用し、剣を縦横無尽に踊らせた。武器は長剣はもちろんのこと、刀や斧、ハンマーなど色々な種類があった。たくさん残してくれた皆さんには感謝しかないな。


 相手は、先ほどまで守りを固めて遠距離攻撃、というシフトだったのに急に近接線モードに切り替えられて苦戦しているようだ。それでもかなりの対応力を見せつけてきた。まだ誰も落ちていない。だが、武装演舞というカードを切ったのだ、一人は落とさせてもらうぞ。


「【麻痺の魔眼】、【脆弱化】」


 俺は適当に、前線で宙に浮いている剣と格闘しているプレイヤーを一人選んで二つのスキルを使用した。一つは対象者の動きを一瞬止めるため、もう一つは剣の耐久力を下げる為のものだ。


 不自然に体が動かなくなり、丁度脆くなった剣の腹に、俺の演舞が吸い込まれるように当たった。そしてそれは、


 パリンッ


 気持ちいように砕けてしまった。そして自分の剣を壊されて動揺しているプレイヤーは返す刀にやられてしまった。


 それは、敵一人を落とす以上の結果を齎す。皆、俺のこの武装演舞の力を過大評価させられて、動きが固くなったのだ。自分も同じ目に遭うのではないか、と。


 そして、その隙を見逃してあげるほど俺は優しくは無かった。ってか、この為にわざわざ一手間増やしたんだから当然だよな。


 俺は天駆と光速を発動し、空中を通って敵陣地の奥、遠距離攻撃部隊がいる地点に移動した。彼らからしてみれば遠距離攻撃をしようとした矢先に出鼻を挫かれ、見守ることしかできなかった時に、その元凶が瞬間移動してきたように見えたことだろう。


 その目には驚愕や恐怖が色濃く映っていた。


「【一花繚乱】」


 敵の遠距離部隊を中心に一つの花が咲き乱れた。


 それは最初は小さな蕾だったが、開花した花弁がいとも容易くまるで花を摘み取るかのように一人の魔法使いの命を奪った。そして人の命を奪った花は更に大きく花開く。


 前線で踊っている剣に合わせてこの花も舞うように命を刈り取り、止まることを知らないようだ。


 気づいた頃には遠距離部隊は壊滅していた。


 残ったのは一輪と数えるには不釣り合いなほど巨大化した美しい花だけであった。


 そして、花の成長の終了に合わせるように、剣戟も終了したようだ。


「……」


 え、一花繚乱ってこんなに強かったのか? 聞いていないんだが。なんかもう名前を変えて人食い花とかにしたほうがまだ合ってると思うぞ? まあ、人食いっていう表現も少し違うかもしれないが。


 ま、まあとりあえず勝ったんだし後のことは後で考えよう。それにまだ、他にも敵は残っている。


 俺はウィンドウを開いて、剣と花しか残っていないその場所でAAの全滅を確認した。そして同時に、メンバーが数人、減っていることにも気がついた。


 俺は、反応するよりも早く光速を起動し、


 ッドン!


 壁に激突した。


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