第823話 味方と死体


 うし、先ずは一人目、砦の外にいた明らかな浮き駒を狩ることに成功した。


 鮮やかなオレンジ色で顔もカッコ良かったんだが、虚空に向かって喋りかけてたからもしかしたら一人の時間だったのかもしれない。邪魔して申し訳ないな。


 たが、そのおかげで俺は気づかれることなく肉薄できたのだから良しとしよう。


「【隠遁】」


 俺は砦の壁に張り付いて中の様子を窺ってみた。


「……」


 何も聞こえなかった。それもそうか。こんな事で中の話が盗聴できたら猿すぎるか。


 俺は頭の中でどのように侵入して攻め入るかをシミュレーションしていた。単騎特攻なんて、やるもんじゃないが、大勢を相手に一人で戦うなんて、なんだか始めた頃を思い出すな。


 よし、もう突っ込もう。どうせ考えても不確定要素は無限にあるんだし、昔の俺はどうせ何も考えてなかっただろ、今更考えたって無駄無駄!


 バンッ


 そんなノスタルジックな気持ちろ軽いノリで俺は砦のドアを蹴り開けた。すると、中にいた全員と目が合った。凄いよな、人って一度にこんなに多くの目線と目が合わせられるんだ、っていうくらい目が合った。


 その間約一秒未満。俺は瞬時に行動を開始した。まず手始めに先程、橙髪の人にもやったように一番近くの人間の首を切り落とす。そしてそのまま光速を使って移動しながらもう何人かにも手をかける。


 しかし、流石はAA《エーシーズ》と言ったところだろうか。前回の敵クランと違って相手もすぐに状況に適応してきた。陣形を整えて俺に対して対抗してきたのだ。


 相手が陣形を組んでたとしても無理やり落とそうと思えば一人二人は持っていけるだろうが、それをすると確実に反撃を食らってしまう。反撃くらいならまだしも、捕えられたり、最悪の場合落とされる危険性もある。それを考慮すると攻めたくても攻められない。


 俺がウズウズしている間にも陣形の後ろの方にいる部隊が遠距離攻撃の準備をしている。おそらく強めの魔法を用意しているんだろな。くそ、これがクランの戦い方か。


 俺が周りを見渡しても目に入るのは俺が作った死体ばかりが目に入り、味方は一人もいない。


 いやまあ俺が一人できたのだからいたらいたらで怖いのだが。


「ん、死体?」


 俺は何かが頭に引っ掛かった。死体そのものというよりはこの状況に対してだ。何か答えがあるような、見えているような感じがしてるのにそれがなんだか分からない、そんな気分だ。


 不味い、もう魔法が飛んで来た。炎系の魔法だ。とてもゆっくりこちらに向かっている。まだ間に合う、考えろ、考えろ、俺がここでとるべき最善の一手を。


 死体、死体、死体……


「はっ!」


 俺はあることに気がついt


 ッボーン!


 どうやら、間に合わなかったようだ。俺にいくつもの魔法が直撃して、脳が揺れるような衝撃が来た。ただ、それだけだった。


 そして俺も反撃に出る。


「【武装演舞】」


 そう俺は魔法が当たるギリギリの瞬間で気づいたのだ、死体が持っている武器の存在を。味方はいなくても使える駒はまだあったのだ。


 ま、だからと言ってガードが間に合ったわけでもなく、魔法は本当に直撃したんだけどな。

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