第807話 ワンちゃんとワンチャン
「り、リーダー。そ、そちらのワンちゃんはどこから? 少し見覚えがある気がするのですが、気のせいでしょうか?」
この質問者の正確な意図はわからないが、このアイスを見たことがある、というのならばそれは前回のイベントの時の可能性が高い。
確か、アイスも出動させたような気がするし、その時に見られていても何もおかしくはないな。
くそ、少し、いやかなり迂闊だったな。クランメンバーと共に時間を過ごしているうちにどこか俺の心の境界線が無意識に広がっているのかもしれない。
ただでさえコミュニケーション能力には自信がないってのに、そんなことをして仕舞えば必ずボロを出すに決まっている。
というか現にその状況だしな。それによくよく考えてみると、弱いものグループに毒耐性をゲットさせるためにデトを呼び出したのもまずかったのかもしれない。
その場では何も指摘されなかったが、今回のアイスみたいに何かの拍子にふと思い出す可能性があるし、点と点が線になる瞬間が往々にして訪れるかもしれない。そしてそれは結構大きな問題だ。
これからは気を引き締めてより一層注意するとして、今はとりあえず切り抜ける方法を探さないとな……
「ん? この犬に見覚えがあるのか? もしかして、この犬、現実世界の何かの品種を基にデザインされたのかな? 俺、あんまり犬に詳しくないからわかんないな。折角なら詳しい人いないか聞いてみるか! おーい、犬詳しい人いるかー?」
よ、よしこれでいけただろう。秘技、話題乗っ取りからの他者巻き込み、だ。これは話の方向性を変えて、さらに他者を巻き込むことでその方向性に限定し、自分にとって不都合な展開にならない様にする、というものだ。
もちろん、今考えた。だが、意外にもこれは功を奏したようだ。
「わー! なんですかこれは! って、いや別に貶してる訳じゃないですよ!? ものすっごく可愛いですね! はぁー私はもう犬には目がないんですよー!」
そういって駆け寄ってきたのは、車以外というメンバーだった。普段はその名の通りもっと静かな印象だったが、犬の前では豹変してしまう、ということだろう。
アイスは大丈夫だろうか。もし、アイスが可愛すぎてこの車以外が暴挙に出ても俺が必ず守ってやるからな。
「んーでもこの犬種は何かと聞かれると少し難しいですね。チワワ味もあるのですが、ポメラニアン味もあるんですよねー。恐らく現実にいる犬を参考にしている訳じゃないんですかね? ベースは同じで後は完全オリジナルとかかもしれません!」
「ほえー」
これは良いことを聞いたかもしれない。今までアイスの犬種が何かなんて考えたこともなかったからな。言われてみれば気になる。だが、アイスは現実にいない特別な犬、ということで良かった気がする。
もし、現実にいたら飼いたいという衝動に駆られてもおかしくはなかったからな。
だが、これで当初の目的通り、話題を逸らすことに成功した。まあ、疑念を晴らすには至っていないだろう。むしろ自分の思っていた回答が得られなかったことで更に疑念が深まったのかもしれない。
だがまあ何はともあれ今俺にできることはこのくらいだし、それ以前に今はイベント中だ。ボケっとしているうちに攻め込まれてしまっては元も子もない。
「よし、じゃあいよいよ攻め込むとしますか!」
俺は心の中に拭いきれなかったモヤモヤを抱えたまま、努めて溌剌な声を出したのだった。
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