第805話 セオリーと予想外


『〔フンコロガシ〕vs〔もふもふ愛好会〕vs〔モフり隊〕』


 俺たちは再び転移した。クラン抗争第二回戦だ。まあ、二回戦と言ってもトーナメントではないのでそこまで大したことではない。今はまだ予選の段階らしく、その中で勝ち上がったクランの中でトーナメントが行われるらしい。


 ここの運営、決勝トーナメント好きだよな。毎回この形式な気がする。


 って、え? もふもふ、モフ? どうなってるんだこれはバグか?


 周りのメンバーも、え? みたいなことをしてたり、面白くて笑ってしまっちゃってたりしてる。俺はなんか、困惑してるんだが?


「……と、とりあえず砦の防衛力をあげようか」


 前回の抗争と、ちらっと他の抗争を見た感じで言うと、このイベントは長期戦での戦いなのだ。セオリーとしてまずは防衛力を上げてそこから始まる攻城戦、どのように攻めてどのように守るか、その攻防をメンバーと協力していかに立ち回るか、これがこのイベントの醍醐味なんだということに気がついた。


 つまり、前の戦いは少々生き急ぎすぎていたのだ。でもまああれに関しては攻められた側だし俺に責任はないと思うんだけどなー。


 俺らがやられた様に開始直後に攻める、っていう戦法を取るクランはいくらかあったみたいだけど、どこも上手くは行っていなかったようだ。ってメンバーに教えてもらった。


 それもそのはずで全員で攻めれば砦がガラ空きだし、全員で攻めなければフルメンバー相手に勝てなくなってしまう。つまり戦法として欠陥があったというわけだ。実際に剣聖会さんは最初に全滅しちゃったしね。


 そう考えると安心幸福委員会がやってた単騎で敵の砦に侵入してワンチャンを狙いに行く、っていうのは案外賢いかもしれない。仮に失敗したとしても犠牲は一人で済むからな。


 あ、ワンチャンってのは犬のワンちゃんではないぞ? 相手クランのせいで少しややこしくなってしまってるが、惑わされてはだめだ。


 おっと、抗争がもう始まっているというのにボーッと考えているだけなのは危険だな。もしかしたら狙われる可能性もあるのだから気を張っておこう。


 それにしても……


「堀、デカイなー」


 この人たちはどれだけ穴を掘るのが好きなのだろうか。前回も穴を掘って侵入したし、魔王城の地下も自力で穴を掘ってたはずだ。穴掘り選手権、みたいなイベントがあったらウチのクランがぶっちぎりなんじゃないのか?


 ま、冗談は置いておいてもすごい堀だ。安心幸福委員会の堀とは比べ物にならない程大きくて深い。


 それにしてもここから攻めるときのことは考えているのだろうか? 橋をかけないともうただの陸に浮かぶ孤島なんだが?


 兎に角、防衛力は格段に上がっているのだから野暮なことは考えないでおこう。近接はおろか、遠距離攻撃ですらあまりの距離に威力が弱まりそうなほどだ。


 よし、俺も何かしよう。俺自身も何か手を動かさなければバツが悪いのだ。メンバーに白い目で見られるのは嫌だからな。クリスタルの偽装でも行っておこうかな。


「アイスー」


 俺はアイスを呼び出した。


『ねーねーアイスー。この綺麗なものをアイスの氷で作れないかな〜?』


 ちょっと無茶振りかもしれないが物は試しだ。できたらできたで万々歳だからな。


『んーできるとおもうー! あいすじぇねれーとー!」


 ピキピキピキ! アイスは空中にクリスタルと全く同じ形のものを一瞬にして作り上げてしまった。


 す、すご。流石はアイス、ウチのペット枠というだけのことはあるな。さて、アイスに手伝ってもらったからお礼を考えておかないとな。この抗争の間は無理だろうけど、終わったら何かプレゼントしてあげたい。


 何がいいか俺が考えていると、


『ねーねーごちゅじんさまー。あいすもたたかっていーいー?』


 ……ん、まじ?

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