第804話 ラストアタッカー


 ッドッゴーーーン!


 目の前の要塞が粉々に砕け散り、堅牢だった建物が一瞬にして青空教室になってしまった。


 あまりの爆音に右耳が上手く機能していないみたいだ。なんかノイズが走っているみたいで気持ち悪いな。片方だけノイズキャンセリングしているというなんとも無意味な状態、みたいになっている。


 ってか、そんなことよりも今もクランメンバーが穴掘りを進行中のはずだ。上から見た限りではクリスタルは見えないから恐らくどこかに隠されている、ということだろう。つまり、メンバーの潜入に勝利がかかっていると言っても過言ではない。


 ならば俺がすべきことはただ一つ、敵勢力の排除だ。一人でも多くの命を踏み潰せ!


 ブチャ、ブシュ、バキッ


 巨人てこんな気持ちなんだろうなーって思いながら心を鬼にして只管敵を倒していった。


 ちらっと砦の内部の方に目をみやるとポコポコとメンバーが地下から湧き出ているようだった。この調子ならばクリスタルを見つけ破壊するのも時間の問題だな、と思った俺はさらに敵の殲滅を加速させていった。


 そして気がつくと、、、


『抗争が終了しました。生存しているプレイヤーは送還されます』


 どうやら誰かがクリスタルを破壊してくれたようだった。抗争が終了しました、というシュールなアナウンスの後、俺らは白い光に包まれ、魔王城地下一階の拠点へと送り返されたのであった。


 ❇︎


「第一回、クラン抗争勝利を祝して、乾杯!』


 俺らはただ今、打ち上げを行なっていた。一週間程度とはいえしっかりと準備をした上でこうやって勝利を掴みとることができた、というのは非常に素晴らしいことだからな。


 それに、他のプレイヤーと何か協力して行うということがこんなにも楽しいこととは思っていなかった。一人の時よりも達成感や充足感が多く得られるし、どことなく見えない絆のようなものも感じられて嬉しいのだ。


 でもまあ、まだそんなに親しくなったプレイヤーはいないんだけどな。


 皆が思い思いに飲み食いして、この場にはとても陽気な雰囲気が漂っている。皆がそれぞれ食べ物と飲み物を持ち寄っての祝賀パーティだったのだが、これも上手くいっているようで何よりだ。


 それにしてもあれよあれよという間にこのクランに入り、リーダーにまで持ち上げられてしまったのだが勝つことができて本当に良かった。だって、負けたら俺のせい、になってしまうからな。


 あ、そういえば誰がクリスタルを破壊してくれたんだろうか? 実質的にそのプレイヤーが勝利を掴み取ったと言っても過言ではないだろう? その人にお礼と祝辞を述べたいんだが……


「おーい、結局誰がクリスタルを破壊したんだー?」


 俺はメンバーにそう聞いてみた。一瞬、会場がシーンとなってしまったがすぐにザワザワし始めた。皆、なんだかんだ気になっていたみたいだな。俺もすごく気になる。


 だが、いくら待てどその人物は現れなかった。


「恥ずかしがる必要はないぞ? とても素晴らしいことだし、感謝とお祝いの言葉を述べたいだけだからな?」


 そう言っても一向に出てくる気配がない。そんな雰囲気に痺れを切らしたのか歯垢帝が俺に進言してきた。


「リーダー、ビデオをみて確認するのはいかがでしょうか? そうすれば自ずと分かるかと……」


 確かにな。せっかくなら本人から聞きたかったのだが、その人がものすっごくシャイな可能性もあるからな。でも、そんなに恥ずかしがる必要もないのになー。


 そんなことを思いながらビデオを再生し、終盤の方まで一気に飛ばした。最後は決着が着く瞬間を収めてくれているだろうから、クリスタルの破壊シーンが撮られているはずだ。


 そうして最後の場面までたどり着くと……


「ブチャ」


 大きな巨人が一人のプレイヤーを潰していた。


「え?」


 何度巻き戻しても早送りにしても、結果は同じだった。大きな巨人が蟻さんを潰すかのように、ぶちゅ、と踏みつけているのであった。


「あれ、もしかしてクリスタル破壊したんじゃなくて、敵が全滅して終わったのか?」


 その後、皆に事情聴取をすると、皆、最初に弱いものグループに命令した、クリスタルじゃなくて敵を狙え、という指示に忠実にしたがっていたようだった。


 ……え、なんか俺ただのイタい奴じゃん。

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