第801話 一人の犠牲者


 汚い花火が打ち上げられた後、外の戦いが終わったのかゾロゾロとメンバー達が砦内に戻ってきた。


 ウィンドウを確認すると13/50という数字と49/50という数字が見えた。


 13/50というのこちら側に攻めてきた剣聖会のメンバーだ。ちゃんと弱いものグループも倒してくれているみたいだな。残り十三人も時間の問題だろう。


 しかし問題は49/50という方だ。これは一人だけ死んでいる、という意味だ。剣聖会の奴がこちらに攻めてきたように向こうにも攻めているのならば一人以上死ぬだろう。


 まあ、可能性として無くはないが、一人だけ死んだ奴と言えば、先程大きな花火になった奴がいる。


 あいつ、俺らが剣聖会に襲われている時に漁夫の利を得ようとしてたんだな? 許せねーなそりゃ。


 安心幸福委員会という名前だから平和な集団と思っていたがこれは少し穏やかではないな。しっかりと報復しなければならない。汚い花火を見せられたツケだな。


 因みに、此方のメンバーはまだ誰一人として死んでいない。安全第一というのを徹底してくれているようだ。


 それにしても確か制限時間は五時間とかだったよな? まだ三十分くらいしか経っていないんだが?


 早く終わるに越したことはないだろうが、一旦弱いものグループが帰ってくるのを待ってもいいかもしれない。時間ならまだ沢山あるしな。


 最大勢力で安心幸福委員会を叩きのめす。


 ❇︎


 とうとう弱グループが帰って来た。今思うと、弱いものグループが敵の砦に向かい、強いものグループが防衛に当たるって、どうなんだ? まあ気にしたら負けか。


「あれ、一人減ってないか?」


 ウィンドウを見ると50の数字が49に減っている。安全第一とは言えど流石に犠牲者を出さずに敵の全滅は高望みし過ぎたか。


「報告します。私たち弱いものグループは剣聖会の討伐に成功しました。常に安全を心がけ離脱と接近を繰り返していましたが、一人がミスを犯してしまい、死亡しました」


「ミスってのはどんなミスなんだ?」


 そのミスの内容次第では俺にも責任があるかもしれない。例えば単に戦闘技術に関するものだったら、弱グループに戦わせなかった俺の責任でもあるだろうからな。


「はい、それが……」


「それが?」


「それなんですけど、死んだ彼、グリコは強そうな敵を自分の手で、いや目で倒せたことにとても喜んでいたようなんです。そのせいで敵の接近に気付くのが遅れ、終いには逃げる際に転倒してしまい、命を失った、という顛末です」


 おいおい……ただのドジじゃねーかよ。


 まあ、その感動を先に味わうことができたら死ぬことはなかったのかもしれないし、訓練の段階で強敵と戦わせるのもありだったかもな。まあ、今更言ったところで結果論だが。


「分かりました。そのグリコさんにはまた後でお話ししましょう。今は安心幸福委員会を倒すことが何よりの優先事項です。準備が整い次第、敵陣に向かいましょう」


 制限時間はたっぷりあるからしっかりと準備をしていける。ただ、それは同時に向こうに守りを固める時間を与えることにもなるから、如何に早く出陣できるかが重要になってくる。


 まあ、それで準備が疎かになっては本末転倒だからしっかりと準備して欲しいが。


 体力の回復やポーションの補充、他にも沢山のやるべき事があるだろう。


「……」


 なんか視線を感じる。周囲を見渡してみるとクランメンバーから見られていた。


「え、皆んなもう準備おけー?」


 俺がそう尋ねてみると、皆一斉に頷き始めた。


「そ、そか。じゃ、じゃあ行くか」


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