第800話 汚ねぇ花火


「おい、そこにいる奴出てこい、いつまで隠れているつもりだ?」


 俺はなるべく怖く聞こえるように腹から声を出してそう言った。外から剣戟の音が聞こえてきた少し後に、とても微弱だが気配がこの砦に混ざったのだ。


 外の戦いを陽動にこちらに攻め入るとは、なかなか良い度胸だ。だが、索敵に自信がある俺を敵に回すのは良くなかったな。


「あらあらあら、バレてしまいましたか。それでは仕方ありませんね」


 どこからともなくそんな声が聞こえてきて、奥の方の陰から人が現れた。その人物はまるで貴族のような、紳士のような姿の男で、目は線のように細くなっていて、薄気味悪い印象だ。


 物腰柔らかそうな態度、口ぶりとは裏腹に、油断も隙も感じさせないその男はどことなくだが、悪魔に似ている、そんな風に思った。


「しかし、パッと見たところ貴方しか守りに参加していませんね。皆さん外にいかれてしまったのですか? それは残念です、せっかくクリスタルを守ろうと戦っているのに、今からその大事なものを壊されてしまうんですから」


 男は微笑を浮かべてそう言った。


 は? 何言ってるんだコイツは。言っている内容が一ミリたりとも理解できない。後、顔は整っているのに、気持ち悪い。


「ん、どういう意味だ?」


「あらら、頭まで弱かったのですが。仕方ありません、折角ですので教えてあげましょう。今からそのクリスタルが壊れるって話です、よっ!」


 そう言ってその男は俺に、いやクリスタルに向かって一直線に飛び出してきた。


「は、速い!」


 その男は俺の想定の何倍ものスピードで俺に、クリスタルに迫ってきた。手には短剣、いやダガーを装備しており、一直線にクリスタルを破壊しに来ようとしている。不味い、あと二メートルもない!


 ビチャ


「な、なんだこれはっ!」


 その男はなんとも奇妙な、いやクソ面白い格好で止まっていた。体が思うように動かないのか、ジタバタもがいているものの、それは滑稽さが増すだけで動けるようにはならなかった。


「あ、そうだったそうだった。クリスタルの周りに超極細の粘着性の糸を張り巡らせていたんだったー。すっかり忘れてたなー。でも、そのおかげで頭の弱いお馬鹿さんが一人捕まったみたいだね?」


「クッ、【自爆魔法】、大爆は


 グサッ


 いや、流石にこんなところで自爆させねーよ?俺は敵の心臓に剣を突き刺し、完全に命を絶った。全く、最後の最後まで焦らせやがってよ。 ってか、もう単騎で砦に乗り込んで自爆するとかやってることがもうほとんどテロ行為だろ。


 って、え? なんか白くなってない? エネルギー吸収してない? え、もしかしてまだ止まってない? 爆発するの?


 待って待って待って待って待って待って待って待って!


 俺は急いで触手を発動し、極細だった粘着触手の特性を解除し、投石でもするかのごとく、今すぐにでも爆発しそうな男を思いっきり窓から外に放り投げた。


 ッドーーーン!


 空に大きな花火が上がった。それは血と肉片が混ざっており、お世辞にも綺麗と言えるものではなかった。


 そして、その花火が本当の戦いが始まる合図だった。

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