第799話 開戦の狼煙
目を開けると、そこは砦の中だった。周りを見渡してみると、ちゃんとクランメンバーたちも来ている。
メンバー達は俺に指示を求めるような顔をしてこちらをみている。そうか、俺がこのクランのリーダーなのか。
ブゥウン、という音がして目の前にウィンドウが現れた。
『〔フンコロガシ〕vs〔剣聖会〕vs〔安心幸福委員会〕』
今回の対戦相手のクラン、という訳か。それぞれのクラン名の下には50/50という表記があり、これは生存しているクランメンバーの数を表しているのだろう。
名前から得られる情報は限定的であるものも、全くのゼロ、というわけでもない。剣聖会なんてあからさまに剣を使う気しかない、ということが窺える。安心幸福委員会さんに関しては何も情報が無いのと同じだな。
さて、早く作戦を立てなければならない。一応、グループ毎に役割を持たせようと思っている。強いものグループ、弱いものグループ、そして俺、ってな感じだ。
分かりやすく役割分けをするとしたら、攻め、守り、遊撃、って感じになるのだろうが、どうだろうか。適当すぎるか?
でも、事細かに作戦を練るなんてしたことないからなー。んー迷うな。一人だったら手当たり次第攻撃して回るのだが、クランになると急に足取りが重たくなる。
「り、リーダー敵襲です! ほぼ全てのプレイヤーが剣を持っていることから、恐らく剣聖会だと思われます!」
メンバーの一人が大きな叫び声でそう報告してくれた。
先手を取られてしまったか。それにしてもあまりに早くないか? 距離的にいえばかなり離れていると思うのだが? くそ、俺がモタモタしているばっかりに……だが、今は本当に時間がない。一刻を争う事態だ。後悔は後だ、今しなければならないことは、、、
「強いものグループは防衛にあたれ! 弱いものはここから離れて剣聖会の砦に向かえ! クリスタルはいいから、とにかく毒煙玉とギロチンカッターで敵を倒すんだ! そして全員に命令だ、誰も死ぬなよ!」
皆、無言で返事をし即座に行動に移した。強いものグループは皆それぞれ獲物を抜き放ち、弱いものグループは影を消すかのように砦から出ていった。
それにしてもなぜ、全員で防衛しないのか、そう思う人もいるかもしれない。それは、つよグループと弱グループの特性が全然違うからだ。共闘してもそれぞれの強みを活かせなくなってしまう。
それに、敵襲を全滅させてしまったら、残りのプレイヤーが警戒してしまうことになる。ならばその隙間を縫って相手に強襲をかけるのが良いという判断だな。それに、うちの弱グループはもう既に弱くない。初見殺しの集団だ。
「お前ら、絶対に敵を砦の中に入れるなよ? もし中に入れたとしても俺が中でクリスタルを守っているから安心しろ。じゃあ、後は頼んだぞ?」
そう言って強いものグループを外に配置した俺は、クリスタルの方へと向き直った。
クリスタルは細長い形をしていたが、少なくとも俺の記憶の中ではこの形をなんというかは学校では教わっっていない。なんと形容すればいいのか難しいが、色は赤で、光を反射しとても綺麗だった。
これを死守するのが俺の役割、ならば全力で守る他無いだろう。
剣聖会による敵が到着するにはまだもう少しかかるそうだ。かなり遠くにいる状態から報告してくれたんだな。この抗争に勝てたらその人を見つけてお礼を言わないとな。
そうだ、今のうちに分体をこっそり混ぜておこう。もしもの時に回復とか追撃などの援護ができたらいいだろうからな。
そしてどれだけの時間が経ったのだろうか、一瞬のようにも思えたその時、砦の外からキン、キンッと剣戟の音が聞こえてきた。どうやらとうとう始まってしまった。
よわグループは大丈夫だろうか? そちらにも分体をつけておけば良かったな。だが、もう遅い、次からは必ず付けておこう。それに、つよグループも気になる。分体をつけているとはいえ、剣聖会なんて強そうなクラン相手に戦えているだろうか?
いざ戦闘が始まるとこれほどまでに不安に襲われるとは思わなかった。だが、俺の役割はこのクリスタルを死守すること、俺以外の全員が死んでも、俺さえ生き残っていればこのクランの勝ちなのだ。俺がブレてどうする。
気持ちを切り替えた俺は再び集中し、クリスタルの前に立つ。
「おい、そこにいる奴出てこい、いつまで隠れているつもりだ?」
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