第798話 最後の屈伸


 遂にこの日がやってきたのか。俺が参加したいなと思ったものの、クランに入っていないからと諦めた俺が何の巡り合わせか、こうやって今、抗争に参加することができている。ならば、全力を尽くす他ないだろう。


 全力で挑んで全力で勝つ。それだけだ。


「イベントエリアへと転送されます」


 俺は魔王城地下一階から、白い空間へと飛ばされた。周りにはクランメンバーがいる。もしかしてここで抗争を行うのか?


「ルール説明を行います。正面のスクリーンをご覧ください」


 ブゥン、天の声さんのアナウンスとともに巨大なスクリーンが現れた。なるほど、ここはルール説明の場所なんだな。確かに、抗争抗争と息巻いてはいたものの、どんな勝負になるか一切知らなかったな。


 ルールを知らないと勝てる戦いも勝てなくなるだろうから、このルール説明は集中しておこなおう。何ならスキルを発動して全力で聴いてもいいかもしれない。


「【叡智啓蒙】、【分割思考】」


 体感時間を引き延ばし全ての感覚を総動員してルール説明を聞く。もう既に勝負は始まっているのだ。天の声さんの声の張り具合、抑揚、間、息遣いに全神経を注ぎ重要なポイントを洗い出す。


 そして同時に分割思考で普通に話を聞く脳とは別に、文全体を分解して理解し、文構造的にどこが重要になるのか、どこがキーになるのかをリスト化しながら話を聞いていく。


 その結果、俺が重要だと思った点を今から列挙していく。


 まず、戦いの形式。これは三つ巴または四つ巴で行われるらしい。フィールドもランダムで選ばれ、そこに等間隔になるように、砦が配置される。これはどのクランも同一のものが与えられるらしい。


 そして重要なのは勝利条件。これはとてもシンプルでわかりやすかった。条件は二つあって一つは敵の全滅だ。全員倒せば闘うこともできないから、勝ち。シンプルで最高だ。そしてもう一つは、敵の砦内にあるクリスタルの破壊、だ。


 クリスタルは砦内のどこにおいてもよく、見つけられても触れられても、破壊されない限りは負けではないらしい。ただ、かなり耐久値は低い為注意がいるようだ。


 まあ、つまりは攻城戦、と言うことだな。敵を倒して城を落とす。面白そうだ。


 制限時間は、五時間。かなりの長さだ。短期決戦ではなくじっくり戦えという運営からのお達しだろう。そそるじゃねーか。


 今回、トーナメントは公表されていない。ただし、途中から三つ巴ではなく、クラン同士のタイマンになるようで、そこからが実質の決勝トーナメント、になるようだ。


 ふむふむ、攻めと守りを両立できてこその真のクランと言う訳か。このルール説明を聞いている他のメンバーも思い思いの顔で聞いている様子だ。


 そして、このイベント、抗争で面白い要素がある。それは戦闘中にランダムで支援物資や強化アイテムが出現する、というものだ。


 どの程度のものなのかは実物を見てみないとわからないが、これのおかげで戦力差が縮まる可能性もあり、ジャイアントキリングも生まれるかもしれない。


 運も実力の内、そう言わんばかりの仕様だな。


 ここまでの手の込んだイベントも久しぶりではないだろうか? 運営の本気度合いがわかるってものだな。


 そして、だからこそ俺はこの素晴らしいイベントで勝ちたい。


 その為にできることはやったつもりだ。俺たちならできる。


 さて、俺らの初戦の相手はどこのクランだ? 俺たちの手の内をどこまで明かされるか楽しみだな。こっちはかなりの弾を仕込んでいるからな。せいぜい楽しませてもらいたいものだ。


 そんな粋がった思考の中、俺の視界は徐々にホワイトアウトしていった。とうとう抗争が始まるらしい。


 ただ、ちょっといいだろうか? スキルを同時に使いすぎて頭が痛いんだけど、少し寝てもいいかな?

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