第791話 リーダーという男


 ウチのリーダーは、まさかの丁寧冷酷残忍キャラだった。一言で表すならサイコパス野郎と言っても差し支えないかもしれない、そんな人だった。


 ❇︎


 俺は践祚、フンコロガシクランメンバーだ。


 俺は今、毒池の中に沈められている。いや、表面上は自ら沈みにいってるわけだが、それには深い訳がある。


 それは少し時を遡って、クランメンバーの皆でレベル上げをしている時だった。


 俺たちはガチ勢じゃないから全然強くないが、それでも一生懸命モンスターと戦っていた。


 拠点が近いこともありなんとか上手くやっていたと思っている。そしてその時、リーダーがやってきたのだ。



 リーダーの目によって俺たちに緊張が走り、動きが全体的に強張った。それでも負けることはなかったが、いつもの動きを取り戻そうとすればするほどいつもの動きができなくなった。


 そんなダメダメな俺らを見て、リーダーはメンバーに召集をかけた。そして、メンバーを二つに分けた。強いものと弱いもの、に。


 この時点で、ん? とその名称に違和感を覚えたのだが、まだスルーできる範囲内だった。しかし、その違和感が明らかな疑念に変わるまでそれほど時間はかからなかった。


 強いものグループには魔王城の第二階層に向かわせてレベル上げをさせ、弱いものグループにはこう言ったのだ。


「では、皆さんには今から、死んでいただきます」


 は? 俺たちはそう思った。


 弱い奴らは必要ないのか、と。弱い奴は斬り捨て殺すのか、と。だが、NPCにそれができてもプレイヤーにそんなことはできない、とも同時に思った。


 しかし、違った。この男は何度も何度も殺し続けることで、精神的に俺たちを壊し、このクランから抜けさせようとしたのだ。


 俺たちが憧れた人がまさかこんな人だったとは。俺たちは絶望に打ちひしがれたがあくまで弱いもの、弱者だ。強者であるリーダーの言うことには逆らえず、その男の従魔が出した毒液に自ら身を投じることとなった。


 何度も何度も、だ。リス地点が近いから最高効率で死にまくった。


 ひどい虚無感にも襲われた。これは世界大戦中に捕虜にやったのと同じやり方だぞ?


 怒りなんてとうの昔に通り越した時だった。一人の男が声を発したのだ。


「な、毒耐性がついたぞ!」


 そしてそこからは早かった。次々に毒耐性を獲得する者が現れ、そして俺にも、、



ーーースキル【毒耐性】を獲得しました。



 システムメッセージが聞こえた。


 そうか、この為だったのか。弱いものである俺たちに価値を付けるために、俺たちにこれほどまでの苦行を強いたのか。


 リーダーは決して俺たちを見捨ててはいなかったんだ!


 むしろ、俺たちのことを真摯考えてくれた結果、王道でいくんじゃなくて邪道の方が良いと判断してくれたんだよな。


 今までの空白の時間が一気に報われた。


 俺たちはやはりこの人について行くべきなんだ、そう再確認することができた。もう迷わない、疑わない。俺たちに道を示してくれた。なら、後は全力で追いかけるだけだ。


 他の皆も俺と同じ気持ちになったようで、目の奥に再び光りが宿った。


 そしてリーダーが現れて言葉発した。


「じゃあ、第二ラウンドといきますか。皆さん、まだまだ死んでくださいね?」


 その男は仮面のような笑顔で、俺たちにそう言った。


 俺たちから目の奥の光を奪うには十分過ぎる言葉だった。


 そして、毒無効を獲得した記憶は無い。


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